2017 Fiscal Year Research-status Report
水政策とエネルギー政策の関連性-比較法・国際法的考察-
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16K03438
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松本 充郎 大阪大学, 国際公共政策研究科, 准教授 (70380300)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 水政策 / エネルギー政策 / 地下水保全 / シェールオイル・ガス / 法律と条例の抵触 / 水源林 / 所有者不明地 / 地籍調査 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度は、日米の地下水の持続可能な利用とエネルギー政策の関連性を中心に文献調査・意見交換・現地調査を行った。 まず、米国では、2000年代中盤以降、シェールオイル・ガスの水圧破砕による採掘が普及し、技術の普及を後押しするため2005年に安全な飲料水法(SDWA)が改正され、連邦政府の規制権限は縮減された。しかし、飲料水の水源の汚染その他の環境影響の懸念は消えず、影響緩和策は主に州政府及び地方自治体に委ねられている。2017年9月にUniversity of Pennsylvania・Cleaveland State University等を訪問し、ニューヨーク州・ペンシルヴァニア州・オハイオ州における州政府及び地方自治体の法的対応について意見交換を行った。 また、米国カリフォルニア州は、最近まで、地下水採取規制を専ら各自治体が制定する条例に委ねてきたが、2014年には、持続可能な地下水管理法が制定された。同法は、2017年度までに持続可能な地下水保全機関を形成し、2020年度までに地下水保全計画の策定を義務付けている。同法の執行状況や実効性について、2018年3月にUniversity of California, Berkeley等の研究者との意見交換や現地調査によって、検討を進めた。 さらに、日本全国の水源保全とバイオマスエネルギー供給の観点から、森林の持続可能な利用及び管理が課題となっている。相続登記が済んでいないために所有者不明地が発生し、地図が整備されていない地域において境界確認が困難になり、森林の所有規模の細分化も進展している。そこで、プライバシー保護と所有者情報の共有化のバランスをとりつつ、所有者取りまとめを進めるための施策を検討した(飯國芳明・金泰坤・程明修・松本充郎編『土地所有権の空洞化―東アジアからの人口論的展望』ナカニシヤ出版、2018年)。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
米国北東部のニューヨーク州・ペンシルヴァニア州・オハイオ州は、マーセラスシェール層上に位置し、州法と自治体条例の抵触が課題となっていた。ニューヨーク州は州環境影響評価法に基づき全面的に採掘を禁止したのに対して、ペンシルヴァニア州は州憲法上の環境権規定・オハイオ州は州憲法上のホームルール規定に基づき、州裁判所が自治体毎の採掘規制を容認している(松本充郎「米国におけるシェールガス・オイル採掘の自治体条例による規制について(仮題)」第22回環境法政策学会において報告予定)。 カリフォルニア州の持続可能な地下水管理法には、自治体が制定した地下水保全条例に州法上の明確な根拠を付与し、州政府(州水資源局及び州水資源管理委員会)に後見的な規制権限を与えている。もっとも、持続可能な地下水管理法は、州水資源管理委員会による地下水利用権の規制権限には手を付けていない。 コロラド川流域において、覚書319号に基づき、米墨間において両国間の水融通及び流域の生態系保全に関する協力が始まったが、同覚書は2017年12月31日に終了することが確定したため、協力関係の継続が危ぶまれていた。しかし、2017年9月には覚書323号が成立し、米墨間の協力は進展した(松本充郎「法の支配を通じた持続可能な発展」星野俊也他編『富の共有と公共政策』大阪大学出版会、2018年、145-182頁)。 日本に関する研究としては、水源林保全と持続可能なバイオマス供給については、森林台帳制度(森林法191条の4)により所有権関連情報の共有が進められていることを確認し、所有者取りまとめに向けた施策を検討した(飯國芳明・松本充郎他編『土地所有権の空洞化―東アジアからの人口論的展望』ナカニシヤ出版、2018年、41-62頁)。もっとも、淀川流域における揚水式発電用ダムの利用状況等、原子力発電との関連性の問題の検討が若干遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、米国北東部におけるシェールオイル・ガスの採掘による水源汚染等の影響の関連性と法的対応については、2018年6月に行われる第22回環境法政策学会において「米国におけるシェールガス・オイル採掘の自治体条例による規制について」とのタイトルで口頭発表する。特に、ニューヨーク州法の環境影響評価法が実体的環境影響評価制度を採用している点やペンシルヴァニア州法の環境権規定が具体的な事件において適用された点等を掘り下げて、年度内に論文として公表する予定である。 また、米国西部において水の長距離移動が行われているが、その際に中央アリゾナ事業が消費する電力は、連邦政府が費用を負担し、ナヴァホ石炭火力発電所から供給されてきた。その理由は、積極的格差是正策として、コロラド川流域プロジェクト法に基づき、連邦政府が、ナヴァホ石炭火力発電所が供給する電力を使ってきたためである。しかし、気候変動政策・大気汚染政策との整合性を確保するため、石炭火力発電所を廃止し、太陽光発電所が供給する電力への切り替えが検討されている。また、昨年成立した覚書323号が、現在の政権下で、どの程度まで執行され実効性を発揮しているかも気がかりである。これらの点については、年度内に追加調査を行い、検討を進める。 さらに、日本における水政策とエネルギー政策の関連性については、2018年7月に行われる16th Annual Colloquium of IUCN Academy of Environmental Lawにおいて、淀川流域の文脈において、水政策と原子力発電や公共交通部門の操業の関連性に言及しつつ、口頭で発表する。特に、摂津市環境保全条例に関する裁判例を掘り下げて、年度内に論文として公表する予定である。
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Causes of Carryover |
繰越額は9,376円であり、プリンタートナーの購入費用に充てる予定である。
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Research Products
(7 results)
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[Book] 土地所有権の空洞化2018
Author(s)
飯國 芳明、程 明修、金 泰坤、松本 充郎
Total Pages
348
Publisher
ナカニシヤ出版
ISBN
978-4779512773
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