2016 Fiscal Year Research-status Report
投資取引訴訟における損害賠償額の調整に関する実態的・法理論的研究
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16K03440
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Research Institution | The University of Tokushima |
Principal Investigator |
王 冷然 徳島大学, 大学院総合科学研究部, 准教授 (70546639)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 適合性原則違反 / 説明義務違反 / 投資者保護 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、投資取引訴訟における損害賠償額の調整に関する実体的・法理論的分析を行い、投資損害の賠償額の調整の当否およびそれを支える損害分配原理の解明を目的とするものである。 本年度は、投資取引訴訟において、損害賠償の根拠の一つとして主張されている「適合性原則違反」に関する日本とアメリカでの認定状況をそれぞれ調べて、中国杭州市で開催された国際シンポジウム「 International High-end Forum on Rule of Law and Reform」に参加し、それについて報告を行った。報告原稿を中国語で中国南京師範大学紀要「法治現代化研究」に公刊された。当該論文において、投資損害の賠償根拠の一つとして重視されている適合性原則違反による損害賠償の認定は、日米両国での判断枠組みが異なっていることが判明された。すなわち、日本では、適合性原則違反が認められながら、損害賠償額の認定において顧客側の業者に対する盲信や損害発生後も投資しつづけたことなどを理由に過失相殺が施され、賠償額が減額される裁判例は多く存在している。これに対し、米国は顧客が業者に対する信頼に正当性があれば、全額の損害賠償が認められている。両国の判断枠組みの違いは法制度の相違に由来するものがあるが、そこに投資者保護に関する両国の司法判断の差異も見られる。 また、投資取引訴訟において、もう一つの損害賠償の根拠として主張されている「説明義務違反」について、先物取引における「差玉向かい」取引手法をめぐる説明義務違反を認定した最高裁の二つ裁判例を対象にし、最高裁の判断枠組みを検討・分析しました。それを内容とする論文は金融・商事判例増刊第1511号に公刊された。適合性原則違反に比べれば、説明義務違反が認定されやすいところがあるが、過失相殺も行われやすいところに問題があるように思われる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
当初、日本での投資取引訴訟における損害賠償額認定に関する裁判例を精査し、そこで反映されている損害賠償額の減額理由を分析することを平成28年度の研究計画として設定したが、投資取引訴訟に関する裁判例は夥しい数があることや、所属研究機関では判例データペースを利用することができないという制限もあり、裁判例の実態調査は遅れており、裁判例の分析作業も予定通りに進むことができなかった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度から新しい研究機関に移動することになり、現在の所属研究機関には判例データペースを利用することができ、時間を効率よく使って、裁判例の実態調査を早く終わらせて、そこで体現されている損害賠償額の減額理由に関する分析作業を行う。 また、現在所属研究機関に保有している外国語文献およびデータペースを利用して、アメリカやヨーロッパを中心に、投資損害の賠償額の認定に関する外国法の動向を調査し、平成28年度の遅れを取り戻せるように作業を行う。
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Causes of Carryover |
発行予定の洋書を数冊注文したが、本年度内に発行されないことになり、注文をキャンセルした。また、国際旅費に学内の補助が得られ、当初予定した旅費額までは使わなかった。 これらの事情により、100,083円の残額は次年度の使用額として発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
洋書の購入および国内の学会出席で100,083円の残額を使用する予定である。
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