2017 Fiscal Year Research-status Report
生命倫理分野におけるヨーロッパ人権条約8条の適用可能性と実効性に関する研究
Project/Area Number |
16K03450
|
Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小林 真紀 愛知大学, 法学部, 教授 (60350930)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ヨーロッパ人権条約 / 私生活を尊重される権利 / 胚の研究利用 / ヒト胚の法的地位 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヨーロッパ人権裁判所において、これまで余剰胚の利用について正面から争われた事案はなかった。ところが、2015年8月27日のParrillo対イタリア事件判決ではじめてこれが論点とされ注目を浴びた。具体的には、不妊治療の過程で作成され移植に使われなくなった余剰胚を研究のために提供できる可能性を否定するイタリア国内法が、ヨーロッパ人権条約8条との関係で問題とされたものである。この事件を素材として、8条の射程と適用の効果を検証することとし、その結果として以下の分析を導き出した。 第一に、胚の法的地位の捉え方に関わる新しい視点である。人権条約8条の私生活の概念に、余剰胚を研究目的で譲渡することまで自己決定権に含まれるかどうかは明確ではなかった。判例の分析により、こうした問題は個人の自律との関連性が強いことが明らかとなった。とくにParrillo事件判決で人権裁判所が示した見解は、これまで人かモノかという視点から考察されることが多かった胚の法的地位について、自己決定権という概念に依拠することで「自己」か「他者」かという視点から捉え直すきっかけを提示した。 第二に、生殖補助医療および胚研究に関わる事案における人権裁判所の統制のあり方が指摘できる。Parrillo事件で問題となったような、余剰胚の譲渡の可否の問題は、人の生命の始期を線引きすることと密接な関係にある。これまで人権裁判所は、ヒト胚が人権条約の条文に謳われている《人》に当たるかどうかという問題に答えることはできず、生命の権利の始点の決定は、最終的には各国の立法に委ねられるべきものであると判断してきた。こうした点に鑑みると、Parrillo事件で人権裁判所がヒト胚の研究利用規制について人権条約を根拠として判断することは困難であったといえ、その意味で、Parrillo事件は、人権裁判所の統制の限界を示しているとも考えられる。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
ヨーロッパ人権条約8条をめぐる議論に関して、(ヨーロッパ人権裁判所の)生殖補助医療に関する判例については、平成29年度にParrillo対イタリア事件判決について研究を進めることができたため、概ね当初の計画通りに進行しているといえる。他方で、終末期医療に関する判例の分析は、現在行っている途中であり、そのためこの部分の研究成果の公表が若干遅れている。終末期医療、とりわけ自殺幇助に関わる事案に関しては、申立人の状況の変化により、一度出された判決が変更されるなど、分析に時間がかかる要素が多い。判例としても複数のものがあり、これらの関連付けは今年度の研究において実施する予定である。それによって、遅れを取り戻すことに専心したい。
|
Strategy for Future Research Activity |
ヨーロッパ人権裁判所が下した、Pretty対イギリス事件判決、Haas対スイス事件判決およびKoch対ドイツ事件判決などを中心として、終末期医療(とりわけ自殺幇助)をめぐり下された判決の分析を早急に進める。
|
Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた理由は、予定していた出張に出かけることができなかったためと、購入した本(洋書)の総額が、為替レートの関係で想定していた額を下回る金額となったためである。 この分は、今年度、国内で開催される学会や研究会等の出張に使用する。
|
Research Products
(3 results)