2018 Fiscal Year Annual Research Report
The applicability and effectiveness of the article 8 of the European Convention of human rights in the field of bioethics
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16K03450
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Research Institution | Aichi University |
Principal Investigator |
小林 真紀 愛知大学, 法学部, 教授 (60350930)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 死をめぐる決定 / 終末期 / 生命の質 / 個人の自律 / 患者の権利 / 生命倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度の研究では、一方で、ヨーロッパ人権条約8条に関してヨーロッパ人権裁判所に提起された事案のうち、Pretty事件、Haas事件、Koch事件およびGross事件をもとに私生活を尊重される権利と死をめぐる決定との関係について考察し、他方で、Hristozov事件を取り上げ、終末期患者に保障される権利を検討した。 第一の点については、8条により、「生命の質について選択する権利および自由な意思に基づいて死期および死ぬ方法を自ら決定する権利」は保障されるが、このことは、直ちに個人に死に対する権利があることを認めることにはならないことを明らかにした。とりわけ上述の4つの事案は、最終的に死に至るかどうかという結果とは別に、死の時期や死ぬ方法に関する選択肢がある中で死について決定できる権利を保障することが重要であることを示している。ここに人権条約8条の意義が認められる。他方で、8条違反が認定された事案では、締約国の義務不履行は認められたものの、違反判決によって当事者の死に関わる希望が叶えられたわけではない。人権裁判所の統制が手続的側面に留まったからである。人権裁判所によれば、これは「補完性の原理」の適用の帰結であり、実体的判断は締約国の義務であるというが、見方を変えれば、こうした人権裁判所の統制のあり方に8条の限界が示されているともいえる。 第二の論点については、Hristozov事件の分析から、未医薬品へのアクセスが「生命の質について選択する権利」に関わることを根拠に、8条が保障する「個人の自律」の射程に患者の権利保障も含まれることを導き出した。未承認薬の使用の可否は、当事者の「延命・救命のための治療の方法を決定する自由」に関わる。「生命の質について選択する権利」が、死に至るまでの過程で患者が治療方法を決定する際にも保障されるべき性質のものであることを、この事案も示している。
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