2016 Fiscal Year Research-status Report
社会的養護における子どもと女性の人権保障ーケアの倫理の視点から
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16K03453
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Research Institution | Bukkyo University |
Principal Investigator |
若尾 典子 佛教大学, 社会福祉学部, 教授 (70301439)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ケア / 子どもの人権 / 家族 / 児童福祉法 / 女性差別撤廃条約 / 子どもの権利条約 / 日本国憲法 |
Outline of Annual Research Achievements |
「子どものケア」の憲法学的検討をした。第一に、「子どもをケアする権利」や「子どもの教育を受ける権利」とは異なり、「子どものケアを受ける権利」は検討されていない。その理由は「家族」への憲法学的関心が、妻と夫との関係への注目にとどまり、「子どものケア」に向かわないからである。ケアは、憲法学上も、家族に委ねられている。第二に、国際的には「乳幼児期のケア」保障への関心が高まっている。きっかけは、1979年女性差別撤廃条約・1989年子どもの権利条約である。両条約は、子どもの育ちを、親による「養育」と親以外による「養護」に区別し、後者を「ケア」とする。性別役割分担論の打破は、母親だけでなく父親にも親として「養育する権利」を保障し、また労働する親に限定はしていたが、子どものケアを受ける権利を掲げた。これが21世紀に入り、OECDおよびUNESCOによって、親の生活に拘わらず、乳幼児に統一的なケアを保障する要求となった。子どもは「教育」と同様「ケアを受ける権利」をもつ、という考え方である。第三に、日本では1947年児童福祉法に、すでに「子どものケアを受ける権利」の保障が提起されていた。ところが、いま、「子ども・子育て支援法」および児童福祉法改正は、子どものケアを受ける権利を保障してきた児童福祉法を解体する方向にある。子育て支援法は、国際潮流にも逆行して、「養育」と区別される「ケア」を、親の「養育」にもどし、親の生活への支援としている。人権の主体としての「子ども」が、再び「家族」のなかに埋没させられようとしている。これは、日本国憲法の掲げる「子どもの人権」を否定するものである。 以上を「子どもの人権としての『保育』--ケアと日本国憲法」(佛教大学福祉教育開発センター紀要第14号、2017年)として、発表した。また、2017年1月27日に開催された日本学術会議主催の公開シンポジウムで報告した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「社会的養護」の課題を、「ケア」と憲法の関係に注目して検討することは、当初、最終年度に予定していた。この検討は、憲法学において「ケア」とくに「ケアを受ける権利」に関する検討がほとんどないため、その不在の理由を明らかにすることは困難だ、と予想されたからである。しかし、あえて最初にこの課題を取り上げ、かつ一定の成果を得ることができたことは、今後の検討を進めるときに、重要な視点を獲得したことを意味する。「社会的養護」は近年、Alternativ Care と言われている。ここで「もう一つ」というのは、家族にたいする概念であるとされ、社会的養護とは、親が責任を果たさないような欠陥家族への支援である、と日本では受け止められてきた。しかし、「子どものケア」は「親の養育」と区別されており、社会的養護は「乳幼児保育」と同列にあることが、本研究によって明らかになった。すなわち、ケアは家族責任を問う概念ではなく、子ども自身の育ちを保障するシステム構築のための概念なのである。したがって、日本の「子育て支援法」における「子育て」や、英語に直訳するとまったく意味が不明になる「社会的養護」という用語そのものに、逆に重大な問題があることを明らかにすることができた。これは、今後の研究を進めるための羅針盤を得たことを意味し、「おおむね順当に進展している」と評価することができる。
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Strategy for Future Research Activity |
一つは、日本における「社会的養護」の制度的枠組の検討である。とくに2016年児童福祉法「改正」問題を視野にいれる。そのために、文献および実態調査を予定している。 いま一つは、ウィーンにおける社会的養護の歴史と現状を検討することである。資料の入手が困難であり、どこまで進めることができるのか、課題はあるが、ウィーン出張を予定しており、取組む考えである。
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Causes of Carryover |
今年度の課題を、Careの憲法学的検討にし、当初、予定していた海外出張を取りやめたことによっている。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、ウィーンにおける社会的養護の制度を調査するための海外出張を予定している。
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