2017 Fiscal Year Research-status Report
「反エスタブリッシュメント」の政治と政党政治---イギリス労働党の比較事例研究
Project/Area Number |
16K03461
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
武田 宏子 名古屋大学, 法政国際教育協力研究センター, 教授 (20622814)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | イギリス労働党 / ジェレミー・コービン / 政党政治 / 社会民主主義政党 / 運動 / 反エスタブリッシュメントの政治 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度が開始されて間も無く、研究計画時の予想から大きく外れて議会が解散され、総選挙が行われることが宣言された。その結果、29年度の研究活動は選挙キャンペーン期間中とその後の労働党とコービン執行部体制の動向についての情報の収集が中心となった。あいにく、健康上の理由で総選挙期間中に現地調査を行うことはできなかったが、8月22日から9月1日、10月26日から11月1日、および3月29日から4月5日までの3度、イギリスに赴き、ロンドン、グラスゴー、ブリストルにおいて労働党と労働党内のコービン支持グループMomentumの関係者から聞き取り調査を行った。また、労働党内のコービン支持者と連携する市民運動であるPeople's Assembly against Austerityの集会やMomentumのHackney支部の集会、Momentumが主催する#Unseatのイベントに参加して、観察を行った。労働党およびMomentumのメンバーたちから直接に話を聞くことにより、彼らがなぜコービン執行体制を支持するのか、労働党やMomentumの活動に参加することが彼らに取ってどのような意味があるのかといった問題についての理解を格段に深めることができた。 こうした現地での調査のかたわら、 ヨーロッパの政党政治や「緊縮財政政策」の政治、政治参加、デモクラシー等に関する文献を検討し、イギリスにおける動向を最新の理論研究と比較研究に位置づけることを試みた。そうした試みの一環としてEAJSの学会やオックスフォード大学で行われたシンポジウムで研究発表を行い、また、これまでの研究結果を「「政党」は「運動」として機能するのか?-ジェレミー・コービンとMomentumによる労働党改革」という論文にまとめて立教法学に発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は総選挙があったにも関わらず健康上の理由により総選挙期間中に現地調査を行うことができず、また、校務などの事情で、現地調査の期間を充分に取ることができなかった。コービン執行部体制で重点がおかれている草の根の党員たちの活動を充分に把握するためには、日常的にどのような活動が行われていて、どのような人々がどのような形で参加しているのか理解することが必要であり、そのためには定期的に、より腰をすえて選挙区レベルで実際の活動について聞き取り調査を行うことが必要であると考えている。他方で、昨年度は研究発表の機会を得て、ヨーロッパやイギリスの研究者と意見交換をすることができ、さらに、中間発表的な意味合いの論文をまとめることでフィードバックを得る機会もあったので、本研究は、今後への課題を含むものの、順調に進展していると考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
先に記したように、今後、研究を発展させていくためにもっとも必要であるのは、現地調査の質を高めることである。そのためには、より選挙区レベルの日常的な活動に密着した観察を行い、また、現地調査の範囲を周辺部、特に2016年のEU離脱を巡る国民投票で「離脱」に投票したイングランド中部や北部の選挙区に拡大する必要があると考えている。 加えて、これまでの聞き取り調査から、反エスタブリッシュメントの政治を理解するためには世代だけではなく、ジェンダーの観点から検討する必要があると考えている。また、政治参加をする人びとの対極に、確実に政治参加のコミットしない人びとが存在しており、「反緊縮」や「反エスタブリッシュメント」の機運の中での政治非/不参加のダイナミクスも考察することが必要であると考えている。 研究プロジェクトの最終年度である本年は、調査の結果を確実にアウトプットしてくために、論文などを執筆したり、研究発表を行うだけではなく、日本語の単行本の出版の計画が具体化できるよう、出版助成に応募するなどの努力をする予定である。
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Causes of Carryover |
予算額全額を執行しようとしたが、為替の変動によって若干の誤差が生じたものと考える。
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