2017 Fiscal Year Research-status Report
政策を分析視角としたドイツ政党システム流動化の研究
Project/Area Number |
16K03465
|
Research Institution | University of Fukui |
Principal Investigator |
横井 正信 福井大学, 学術研究院教育・人文社会系部門(総合グローバル), 教授 (10220542)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ドイツ / 政党政治 / 比較政治学 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度においては、前年度に行ったドイツの政党システム流動化に関する論点整理作業を基礎として、第3次メルケル大連立政権における主要政策課題への対応状況が政党システムの流動化からどのような影響を受けているのかについての分析研究を行った。特に、二大政党の間での表面上の対立と実際の政策的収斂という点で注目される年金政策について、第3次メルケル政権後半期に主として給付を拡大する方向で行われた改革に関する詳細な分析を行い、その成果については平成30年1月に学術論文「メルケル政権における年金改革政策の転換(Ⅱ)」として発表した。また、平成29年11月に開催された北陸地区国立大学連合協議会主催の「北陸四大学連携まちなかセミナー」において、「ドイツにおけるポピュリスト政党の台頭とその限界」と題して、ドイツにおいて近年注目を集めている右派ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」の勢力拡大の背景とドイツの政党システムに及ぼす影響についての報告を行った。 平成29年9月にドイツにおいて連邦議会選挙が行われた後、数か月にわたって連立交渉が難航するという状況が発生したことから、上記の分析研究と並行して、同年12月には連邦議会選挙結果及びその後の連立交渉の推移について、10日間程度ドイツでの現地調査を行った。この現地調査においては、連邦議会選挙と連立交渉に関する資料を収集するとともに、キリスト教民主・社会同盟(CDU/CSU)との大連立政権を樹立するための協議を開始するか否かを決定することになったドイツ社会民主党(SPD)党大会(ベルリンで開催)を傍聴し、近年党勢の衰退が顕著となった同党の党内状況と連立協議における主要論点についての調査を行い、党大会に出席した代議員等に対するインタビューを行った。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は、1990年のドイツ統一以降の同国を取り巻く内外の構造的変動が、かつては安定した政党システムを有していたドイツにおいて、近年顕著となった大政党の支持基盤の溶解、政党支持の多元化と無党派層の増大、主要政党間の政策の収斂化と左右ポピュリスト政党の台頭といった政党システムの流動化とどのような関係にあるのかを具体的な政策対応の面から実証的に明らかにすることにある。 このため、平成29年度においては、CDU/CSUとSPDの両大政党の支持基盤の変化に加えて、①CDU/CSUと緑の党の政策的距離がどの程度縮小し、昨年の連邦議会選挙後に連立を形成できる可能性がどの程度高まったか、②近年衰退傾向が顕著となったSPDが、第3次メルケル大連立政権下での与党としての円滑な政権運営と、CDU/CSUとの方向性の違いの明確化による党勢回復という矛盾する課題にどのように対処しようとしているか、③保守的有権者を中心に大政党、特にCDU/CSUから支持者を奪う形で勢力を拡大してきたAfDが今後ドイツの政党システムにどの程度根付く可能性を有しているかを中心に分析調査を行った。それらの成果については、上記の学術論文及びセミナー報告において公表した。 また、本研究においては、政党システムの流動化と諸政党の主要な政策課題に対する対応状況の相互的関係を、研究者による分析だけではなく、行政官庁や政党等によって作成・公表される諸文書、世論調査資料、メディア資料、主要政党所属者等に対するインタビュー等によって明らかにすることも目指している。この点においても、ドイツでの現地調査を実施し、主要政党の党大会における党首・執行部選挙の観察や党大会代議員に対するインタビューを実施できた点からも、研究は概ね順調に進捗していると判断できる。
|
Strategy for Future Research Activity |
昨年9月の連邦議会選挙においては、両大政党の合計得票率が53.4%となって、両党を合計しても過半数を若干上回る程度にまで政党勢力の拡散状況が明らかとなり、特にSPDが20.5%という過去最低の得票率を記録した。他方で、1980年代に反体制的な政党として出発した緑の党の路線転換が進み、選挙後にはかつては不可能と言われていた中道保守政党CDU/CSUとの連立協議が行われたが、結局失敗し、再度CDU/CSUとSPDによる大連立政権の樹立が試みられるという形で状況が二転三転した。平成30年度においては、前年度に行った分析と現地における調査を基礎として、ドイツの政党システムに根本的な変化をもたらした昨年の選挙議会選挙とその後本年3月まで5か月以上かかった政権樹立の経緯及びその結果についての分析を行う。 また、メルケル首相が率いるCDU/CSUにおいては、政権発足後13年を経過して同首相の後継指導者をめぐる議論が浮上しつつあり、さらに難民政策等をめぐってメルケル首相に対する批判が続く等、不安定化の兆候が見られる。このような状況のなかで本年12月には同党の党大会が開催され、党首以下の執行部選挙が行われる予定であることから、この党大会が開催される前後に10日間程度ドイツを訪れ、第4次メルケル大連立政権発足後の安定度と各政党の現状をCDU/CSUを中心に現地調査する。 その際には、2005年以降の大連立政権下で進行してきた政策の収斂化が政党間競争において決定的な役割を果たすようになった浮動的有権者層に対してどのような影響を及ぼしてきたかに重点に分析調査を行う。また、これらの分析調査を通じて、社会国家の変容を反映した諸政策がドイツの政党システムの流動化とどのような相互関係にあるのかについて、研究期間全体を通じた一定の結論を得る予定である。
|
Research Products
(1 results)