2018 Fiscal Year Research-status Report
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16K03489
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
石川 敬史 帝京大学, 文学部, 准教授 (40374178)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 共和主義 / 連邦政府 / デモクラシー / 王政 / 混合政体論 / アメリカ革命 / 立憲主義 / アメリカ合衆国憲法 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は前年度までの研究活動を踏まえて研究成果を反映した研究会・学会報告と学術的著述を発表し、それを通して他分野の専門家の見解を求めるとともに、自身の研究テーマの確認をすることを目標とした。本研究計画のテーマは「アメリカ革命の王政的解釈と立憲主義再定義」であり、こうした分析枠組みであるからこそ可能であった視覚を得られたと考えている。具体的には平成30年10月27日に東京外国語大学で開催された社会思想史学会での報告「初期アメリカ共和国における主権理論の模索」は、アメリカ合衆国建国の際に、植民地時代には不可視的な存在であったイギリス王政による主権の問題に、アメリカ革命の担い手たちがどのような接近方法によって取り組んだのかを考察したものである。また平成31年2月9日に成蹊大学で開催された研究会にて行った報告「フェデラリスト政権と奴隷貿易:同盟、党派抗争、地域間対立」は、フェデラリスト政権期(初代大統領ワシントン、第二代大統領ジョン・アダムズの時代)における外交と内政を再検討し、これまで通念として受け入れられていたアメリカ革命理解により繊細な視点を提起できたと考えている。アメリカ革命が共和政革命であるという原則それ自体を再確認することにより、実は、フェデラリスト政権期までは、ヨーロッパの知的世界に共通の議論枠組みであった共和主義的思考様式がかつての本国であるイギリスと交換可能なものだったのではないかという視点である。すなわち、ヨーロッパ世界の知的枠組みとは質的に異なるアメリカン・デモクラシーが本当に姿を現したのは、このフェデラリスト政権期に対するアンティ・テーゼであったジェファソン政権の誕生の経緯によるものであったという視点でもある。また本年度中に刊行が間に合った論文「収斂としてのアメリカ革命」は、環大西洋世界における信仰と商業の歴史がアメリカという政治体に収斂した過程を描いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成30年度までに必要とする文献資料を概ね入手できたこと、今後必要になる資料がこれまでより明瞭になったことがまずは研究の進捗状況が概ね順調である理由である。さらに前年度まで模索段階であった、アメリカ革命の王政的解釈がアメリカ革命理解にどれほど資するのかという問題に一定の見通しが立ったことが挙げられる。特にこの件については、研究代表者自身がライフワークとしてきたジョン・アダムズの混合政体論研究が、本研究のテーマと融合することに気づくことができたという要因が大きい。初期アメリカにおける主権と権力分立の雛形が、ヨーロッパにおける混合政体論のアメリカ化であるというこれまでの研究による知見を用いると、アメリカ連邦体制による主権の創設、およびその枠組みであるアメリカ合衆国憲法に権利章典が当初は想定されていなかった理由をより明確にできるとともに、アメリカン・デモクラシーとは、こうした混合政体論という架橋の理論をアメリカの固有の状況から生まれた政治的文法なのではないかという独自の視点を構築することが可能になったかもしれないと考えている。それと同時に、アメリカ立憲主義とは何かを考える際に、混合政体論という王政的な伝統による考察が今日のアメリカ立憲主義を検討する際の重要な視点になることにも気づいた。これは本研究課題を始めた段階では、気づかなかったものである。本研究課題のキーワードに関わる、「王政」と「アメリカ革命」の有機的な連関およびそれが共和政政府における立憲主義のあり方に繋がる糸口がようやく見つけられたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度までの研究活動から得られた知見から論文を二本執筆したが、事務的な都合で本年度中の刊行には間に合わなかった。次年度は、これらの研究成果を足がかりにまとめに入っていきたい。今後の研究の推進方策としては、これまでの研究活動と同様に、それを業績化してより精度の高いものにしていくと同時に、研究最終年度にふさわしく、より研究テーマそのものを取り扱った学術的著作を執筆することを目指すのが良いと考えている。研究発表の場と勤務校の学務の状況もあり、すべてが理想的に運ばれることは現実問題としては困難ではあるが、本研究テーマを元にした研究活動の成果を単著として出版する方策を探しながら研究活動を展開していこうと考えている。また、本研究課題それ自体は、代表者が単独で行う規模の小さなものであるが、他の分担している研究課題と有機的な連関を活かして、本研究課題をより強力に推進するつもりである。
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Causes of Carryover |
概ね順調に推移したが、4714円が残額となった。次年度の研究活動に必要な書籍購入費および印刷費用などに充てたいと計画している。
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Research Products
(4 results)