2016 Fiscal Year Research-status Report
旧ユーゴスラヴィア紛争とその国際政治における歴史的・理論的研究
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16K03516
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
定形 衛 名古屋大学, 法学研究科, 教授 (20178693)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 旧ユーゴスラヴィア紛争 / セルビア / ミロシェヴィッチ / ボスニア / 民族浄化 |
Outline of Annual Research Achievements |
旧ユーゴスラヴィアは1991年からほぼ10年間に亘った紛争によって、連邦国家は現在7つの国家へと解体している。本研究は、この間の民族紛争という対立と反目さらに暴力的過程の結果総じている旧ユーゴスラヴィアを構成した各共和国間の国際関係のありようを歴史的に検証し、併せてこれらの諸国家間関係を支配する政治的な理論枠組みについて考察しようとするものである。28年度においては、この紛争で中核的存在となった、ミロシェヴィッチ期のセルビアの解体過程へのかかわり、および国際社会によるセルビア悪玉論の構成の歴史的、理論的背景を考察した。 そもそも社会主義時代の旧ユーゴスラヴィアの国家的統合が、構成共和国間の均衡と抑制という制度のもとで、極めて不安定な政治的枠組みであったことが、冷戦後の各共和国の外交的選好とアイデンティティの実質化のなかで紛争を導いたことが明確となり、その過程で民族自決論が民族浄化論へと導かれていった政治過程、国際社会の介入過程が立証されたことが本年度の具体的な研究実績である。 その過程での論考としては、ボスニア紛争へのミロシェヴィッチ期のセルビア介入、さらに国際社会のセルビア制裁と、それとは裏腹にデイトン合意に至る過程でのセルビアへの宥和政策の論理を検討した。とくにコンタクトグループの形成とボスニア分割案におけるアメリカの役割とその論理の矛盾、さらにミロシェヴィッチ政治の冷戦後の国際政治史における位置づけについての研究で一定の進捗をみたと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請時に記した28年度の研究計画については、セルビアの旧ユーゴスラヴィア解体における役割、および国際社会の介入の論理について、民族浄化論と民族自決論のすり替え構造を明らかにできたこと、さらに冷戦後の国際政治史において旧ユーゴスラヴィア紛争の意味とセルビア外交の旧ユーゴスラヴィア外交からの継承と断絶の両面について研究を進めることができたことを以て、ほぼ順調に進展していると判断しています。
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Strategy for Future Research Activity |
29年度は、共同研究者のセルビアの政治学研究所ジョルジェ・ストヤノヴィッチ博士が日本学術振興介の外交人研究者招請事業によって名古屋大学に10か月間来日いたします。彼との共同研究によって本研究の総合的な課題である、旧ユーゴスラヴィア構成の共和国間関係、言い換えればニア・ネイバーの諸国の国際関係のありようと今後の発展についての研究が大いに活性化されるものと考えています。
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Causes of Carryover |
当初10月にセルビアの政治学研究所を中心に資料収集、研究会出席を計画し、切符の手配をいたしましたが、10月初旬に腰痛が悪化し、療養を余儀なくされ、計画を断念し、次年度に延期しました。以上の事由により差額が生じている状況です。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今年度は、上記の昨年度の計画を実施するとともに、夏と冬の二度にわたって、セルビアのベオグラードでの調査およびクロアチア国際関係研究所およびボスニアの政治学部を訪問し、旧知の研究者等と旧ユーゴスラヴィアの外交理論の研究と今日的意義について検討を重ねる予定であります。
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Research Products
(2 results)