2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03517
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松野 明久 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (90165845)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ポリティサイド / ジェノサイド / カンボジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題はその出発点において、敵対集団の「本質化」とそれに対する「破壊意図」の形成がポリティサイド実行の前提としてあるというモデルを提示した。それはつまり、敵対集団の政治的性格を矯正不能なものとみなし、あるべき理想社会の実現のためには、集団として破壊する(殺害・抹殺する)しかないとの考えにいたるプロセスである。このモデルはインドネシアの1965年の共産党関係者大量殺害(いわゆる9・30事件後の虐殺)の事例研究をもとに仮説的につくられたものである。 初年度はカンボジアの事例における検証を行った。そのために、カンボジアにおける聞き取り調査を2回、アメリカにおける資料収集を1回行った。カンボジアではシエムリアップ県、カンポンチャム県、プルサット県で殺害の行われた町や村を訪れ、住民や関係者から証言を聞いた。アメリカではエール大学のカンボジアジェノサイドプログラムを訪問し資料を収集し、研究者と議論を行った。 その結果、ポルポトに率いられた民主カンプチア時代の大量殺害における敵対集団の本質化は、冷戦を背景として起きたものとはいえ、反植民地主義(反フランス)・反覇権主義(対ベトナム)を軸として長い歴史の中で形成されたクメール民族主義の極端な排外主義的表現であることが理解された。純粋なクメール人の復興という理念が、暴力的な革命理論と結びついたとき強烈な破壊意図が発生した。「不純」な要素と考えられた近代的諸要素(知性)、非クメール的諸要素(イスラム教)や外国的要素(ベトナム)が本来のあるべきカンボジアを堕落させ、あるいはクメール人を搾取してきたとみなされたのである。そうした要素が集積していたプノンペンの住民はとくに厳しい扱いを受けた。 初年度は、ラテンアメリカの事例を探求するためアルゼンチン(汚い戦争)についての資料、さらには旧ソ連(富農抹殺や粛正)、中国(文革)についての資料収集を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画に記していたカンボジアに関する事例研究は、アメリカでの資料収集、カンボジアでの2度にわたる調査で十分に行うことができた。また、次年度の事例研究であるアルゼンチンについての資料収集も着実に行った。加えて、旧ソ連、中国の事例研究についての資料収集にも着手した。 とくにカンボジアの調査は現地在住研究者及び学生の多大な協力を得て、予期していた以上の成果をあげることができた。政治的にも微妙な問題であり、また過去のつらい出来事について人びとが進んで話をしてくれるということは想像していなかったが、実際には、全員ではないにしても、多くの人が語ってくれたということが大きい。それはおそらく未だ過去が納得されていない、精算されていないという感覚から来るものと思われる。実際に何が起きたかはそれぞれが知っており、経験しているけれども、その理由がうまく説明されていないためいつまでも心に疑問として残っているようである。この「わからなさ」というのがカンボジアの事例の特徴である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も当初の計画通りに進めていく。すなわち2年目は、ラテンアメリカの事例研究としてアルゼンチンの「汚い戦争」を研究する。そのためにアルゼンチンに関する資料を読み、またアルゼンチンを訪問する。すでにアルゼンチンに関する資料は初年度に集めており、また調査に協力してくれる現地在住の法律家と連絡がとれている。アルゼンチンでは過去の人権侵害について資料をもっている人権団体やそれを研究している研究者や法律家からの聞き取りを行う。 旧ソ連と中国については現地調査を計画には入れていなかった。しかし、事例として研究する中で、いろいろとわからない点や確認したい点が現れた。旧ソ連・スターリン時代の富農抹殺及び粛正はポリティサイドにあたると考えられるが、文革時代の暴力がそれにあたるかどうかはまだ確信がもてない。何らかのかたちで研究者と面談し、質問を投げかけてみたいと考え始めている。そのためには研究者のいるアメリカやヨーロッパへの調査旅行をしなければならず、その点、計画の一部を変更する可能性があると考えている。もしそうすることになれば、2年目に計画していたインドネシアへの調査旅行を別財源で行うことになるだろう。 2年目は学会発表を行う予定である。また3年目はポリティサイドに関するシンポジウムを日本で開催する計画であり、2年目はそのための準備を行う。シンポジウム開催のために海外からの研究者を4名招へいする計画であったが、予算が不足する可能性が高く、そのために別途開催費用を獲得する必要があり、その申請を2年目に行いたい。また、本課題においてはポリティサイドについての本を執筆する計画であるので、2年目から執筆を始める予定である。本の構成については初年度より段階的に煮詰めており、2年目に執筆に取りかかることは十分可能であると考えている。
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