2017 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03517
|
Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
松野 明久 大阪大学, 国際公共政策研究科, 教授 (90165845)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | ポリティサイド / ジェノサイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本課題2年目となった今年度は、アルゼンチンで調査を行い、2つの国際研究集会において司会やパネル発表者を務め、英語論文を発表した。 まず、7月に豪クイーンズランド大学で行われた第13回国際ジェノサイド研究学会「正義とジェノサイドの予防」では、「人道に対する罪を問う1965年事件に関する民衆法廷の考察」というパネルの司会をした。本パネルは本課題でも探究してきたインドネシアの9・30事件後の虐殺をジェノサイドあるいは人道に対する罪という観点から議論したものである。 次に12月に米コロンビア大学で行われた歴史的対話・正義・記憶ネットワーク主催会議「時間、記憶、そして歴史的正義の交渉」において、「インドネシアのジェノサイドを解釈する」のセッションで「比較の視点でみるインドネシアの1965年」を発表した。近年におけるポリティサイドの議論やアルゼンチンにおけるジェノサイドの議論の展開を紹介し、人道に対する罪の限界を指摘した。 9月にはアルゼンチンでの調査を行った。アルゼンチンでは軍事独裁政権時代の3万人近い失踪事件の追及が現在まで続いている。その裁判においてその時代の弾圧をジェノサイドとして描くという判例が生まれており、新しい考え方が法律的にも出されている。これをめぐって法学者、歴史学者、社会学者、人権団体、裁判官、弁護士等と意見を交換した。 3月にはインドネシアの虐殺に関する論集が出版され、それに本研究の成果である論文を収めることができた。The 30 September Movement and Its Aftermath in Bali, October-December 1965で、Katharine McGregor, et.al. eds. The Indnesian Genocide of 1965, Palgrave Macmillan, 2018.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アルゼンチンの調査が本年度の大きな研究活動であったが、それを達成することができた。アルゼンチンは自身にとっても初めて行く国であり、研究者ネットワークを通じて多くの関係者に面会し、また資料を集めることができたことは、成果として大きいと感じている。また、ポリティサイドの議論を国際的に提示し、いろいろなインプットを得られたことも大きな成果であった。上記に述べた国際会議以外にも、韓国の大学で講演を行い、議論を行うことができた。これで書籍執筆に向けて、概ねフレームワークが固まったと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本課題3年目にあたる今年度は、ポリティサイドに関する2本目の論文を執筆する。これらはポリティサイドに関する本の執筆の前段階にあたるものである。この論文ではインドネシアの9・30事件後の虐殺を事例として、その展開過程において敵勢力(共産党及びその支援者・関係者たち)をどのように「本質化(essentialize)」し、破壊意図へと繋げたかを論じる。 次に、秋にポリティサイドに関するシンポジウムを開催する。本研究では事例としてはインドネシア、カンボジア、アルゼンチンを取り上げているため、シンポジウムではそれぞれの事例を探究する研究協力者を集めて議論を深めたいと考えている。本課題が探求するポイントは、政治集団に対する大量殺害における相手の本質化とそれに対する破壊意図の論理的繋がりであり、それを冷戦時代のイデオロギーを背景として議論することを構想している。これまで、ポリティサイドとはジェノサイドの論理的応用に他ならず、政治集団に向けられた破壊行為としての普遍的なカテゴリーとして構想していた。しかし、冷戦という要因の考察は具体的な事例を研究する中で抜かすことのできないものとして浮上してきた。政治集団の破壊は時代や場所を越えて行われてきたが、本質化から破壊意図にいたる極端な、ジェノサイダルな意図の形成は冷戦のもつ強いイデオロギー的要素をもって初めて可能であったと考えることができるかも知れないからである。少なくとも、冷戦という状況が決定的にその形成を促したと言えるだろう。その際、冷戦という要因はまさに冷戦そのものを指すのか、より普遍的な人間の敵対関係の様態の発見へとつながるものなのかを検討する必要があると思わわれる。
|