2016 Fiscal Year Research-status Report
平和な社会を構築するビジネスの可能性:社会的・経済的権利に注目して
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16K03520
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
片柳 真理 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (80737677)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 平和構築 / ビジネス / 信頼構築 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、事例の資料収集と文献研究、それに基づく論文執筆を行い、日本国際政治学会の学術誌『国際政治』186号に論文「人権に基づく転換的平和構築」を発表するに至った。本研究では、社会的・経済的権利実現の手段としてのビジネスに注目しているが、同論文はビジネスについて検討する前段階として、社会的・経済的権利の実現と平和構築の関係を考察している。 同論文の議論の中心は、社会・経済的正義の実現に取り組むことで紛争の影響を受けた社会を平和に向けて転換するという平和構築のアプローチの提唱である。同様のアプローチが移行期正義、紛争解決論、平和学、平和構築論等、複数の研究分野において注目されているため、幅広く先行研究のレビューを行っている。それ自体、本研究の一部である文献研究の重要な部分を占める。 特に移行期正義の分野においては、従来の市民的および政治的権利を対象とするのみならず、経済的・社会的・文化的権利を重視する議論が増えている。また、実践面においても、東チモールの受容・真実・和解委員会や、シエラレオネの真相・和解委員会など、経済的・社会的権利が取り上げられるようになってきている。さらに、移行期正義と比較してより広く社会に働きかける「転換的正義」を主張する研究者もおり、そこでは市民参加による平等な社会の実現という社会変革が目指されている。これは紛争解決論や平和学において追求される社会変革プロセスと非常に類似している。 プロセスへの参加とエンパワーメントは、平和構築に人権アプローチを適用する立場からも論じられている。社会変革を通じた平和構築の実践例としては、ソーシャルワークを通じたコミュニティ・ビルディングによって社会的・経済的権利を実現するアプローチがある。 同論文の成果は、社会・経済的正義の実現という視点から、ビジネスが平和構築において果たす役割を検討する基礎となるものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
遅れの最大の原因は、他の業務の関係でフィールド調査を実施できなかったことである。しかし、文献研究および事例の資料収集を進め、上記の通り論文の発表に至った点ではむしろ予定以上の成果を得たといえる。 また、本科研による研究の枠外であるが、日本の事例についても調査を進めており、日本企業3社の幹部から、企業がビジネスを通じて行おうとする社会貢献や、社会変革に関する聞き取り調査を行った。それをもとに、企業家の理念と平和の関係を考察し、執筆論文は国際ジャーナルに投稿中である。日本の事例を執筆したことで、先行研究の整理や自らの視点の明確化という面では、計画以上の成果を得られていると言える。さらに、この事例研究をきっかけに、ビジネスを通じた平和構築の理論的研究を進めている。それは、信頼構築と平和構築の関係を考察することにより、ビジネスが平和構築に貢献する可能性を理論的側面から検討しようとするものである。 当初より予定していた事例の資料収集では、特にミャンマーにおける政府主導のビジネス振興に注目した。2016年10月にアウン・サウン・スーチー氏がビジネス界のリーダーと会談し、ビジネスによる和平プロセスへの貢献に期待を示した。具体的な活動が実施されるかどうかは未だ不明であるが、開始されれば新たな研究対象となり得るため、今後の推移を追うべきものと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
事例収集については継続して進めていく。特にミャンマーに関しては和平プロセスとビジネスの連携が期待されているため、注意して情報収集を行う予定である。 フィールド調査は平成28年度に実施できなかったため、平成29年度中に2回の実施を検討している。現地調査の内容については現在再検討中である。上記の通り理論的研究において信頼構築と平和構築の関係を考察しているため、フィールド調査でも「信頼」を基軸にした聞き取りを行いたいと考えている。当初の研究計画ににはなかったが、英国コベントリー大学の信頼・平和・社会関係センターの研究員であるフレンズ・クローガー博士との共同研究を開始したため、本科研の研究においても研究協力者をお願いする。協力内容は、信頼学の見地からフィールド調査の計画に関するアドバイスを受け、執筆においても理論面で協力して頂き、共同執筆の可能性もある。
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Causes of Carryover |
現地調査を実施できなかったため、次年度使用額が発生した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度に現地調査を2回実施する計画である。
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