2017 Fiscal Year Research-status Report
平和な社会を構築するビジネスの可能性:社会的・経済的権利に注目して
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16K03520
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
片柳 真理 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (80737677)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 平和構築 / ビジネス / 信頼構築 / 主体性 / エンパワーメント / 協働 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、社会的・経済的正義を重視する平和構築において、ビジネスを触媒とするアプローチの可能性を、人権の概念を基に検証することを試みている。平成29年度の主な成果は、まず第1回のフィールド調査を実施し、事例研究を進めたことである。また本基金は使用しなかったものの「平和構築と信頼構築:若者、女性、コミュニティをつなぐ」と題する国際シンポジウムを広島市南区文化センターで開催し、本研究の枠組みとなる平和構築と信頼構築の関係について考察を深めると共に、研究成果を発信できたことは重要であった。 フィールド調査では当初2社を予定していたが、そのうち1社は閉鎖していることが判明した。しかし、閉鎖理由等詳細を聞きとることができ、紛争後の厳しい条件においてビジネス経営がどのような困難に直面するのかを示す事例として記録することができた。調査日程上、予定していたもう1社に替えて、第2回に予定していた企業1社と、新たにみつけたラズベリー生産者の協会について調査を行った。前者は本研究で注目しているビジネスの実施において求められる自主性、実施効果としてのエンパワーメント、取引上求められる協働という特徴をすべて満たす事例である。この企業については第2回調査でさらに詳細なデータ収集を行う。後者はビジネスが社会の転換そのものに関わる可能性を示す、具体的には政治的分断を越えた協働を生み出す可能性を持つ事例であった。本事例もアクターの自主性と、活動を実施する中でのエンパワーメントを観察できる。しかし、調査の時点では発展が期待されていたものの、その後のフォローアップでは困難に直面していることがうかがわれる。本件も第2回調査でさらに聞き取りを行う予定である。第1回調査の成果として、学会発表の準備が整った段階である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度に予定していたフィールド調査を他の業務のために実施することができず、遅れが生じてしまった。平成29年度に2回のフィールド調査を行いたいところであったが、これも時間的に困難であり、1回の調査にとどまった。そのため、第2回の調査は平成30年度の実施予定となっている。 第1回フィールド調査では4件の事例調査を行った。1件目は調査を予定していた会社であるが、事情があり事業閉鎖に至っていたことが判明し、その事情を聴きとる結果となった。そのため、紛争後のビジネスの展開にどのような困難な条件が存在するかを知る事例となった。2件目は第2回調査で予定していた企業で、現在も好調な業績をあげており、本研究の仮説を裏付ける事例であることが確認された。第2回調査でより詳細なデータ収集を行うこととした。3件目は情報収集を進める中で新たに注目したラズベリー生産者の協会である。同協会の活動は、本来政治的意図はないものの、民族分断を固定化する政治的な傾向に対抗するもので、平和構築の意義としては重要な事例である。4件目はエジプト人の経営者がボスニア・ヘルツェゴビナに設立した企業であり、聞き取りを行ったが、平和構築との関連で研究対象とするには適切ではないとの判断に至った。事例調査のほかに、現地調査の際にはビジネス振興による復興が進んでいる自治体の長のインタビュー、同様の研究を行っている研究者のインタビューも実施し、周辺情報の収集に努めた。 第2回フィールド調査の実施は平成30年度に延期せざるをえなかったものの、その準備は進めることができた。特に、クロアチアでの調査について現地の研究協力者がみつかり、効率的な調査を見込める状況となっている。 研究成果については年度内の発表はできなかったものの、学会発表に応募し、平成30年6月の発表が決定している。
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は第1回フィールド調査の成果を発表する機会を得られなかったため、まず6月2日に開催される国際開発学会春季大会にて「平和構築におけるビジネス-成功、失敗と可能性―」と題した研究発表を行う予定である。 また、平成30年度は第2回のフィールド調査を行い、データ収集を完了してその分析を実施した上で、学会発表および執筆を行う計画である。大学業務の関係上出張日程が限定されてしまうため、クロアチアとボスニア・ヘルツェゴビナの調査を分け、2回の出張を行う可能性がある。事例は当初の予定より絞り込み、集中的なデータの収集を進める方針である。クロアチアについては現地研究機関による先行研究の存在が判明したため、同機関との研究交流も行いながら調査を進める。 執筆については既に国際学術誌への投稿を試みた日本の事例に関する論文を修正し、理論的な議論を深めたい。同論文は研究協力者である英国コベントリー大学、信頼・平和・社会関係センターのフレンズ・クローガー研究員との共著である。同論文で展開する理論をもとに、第1回調査で収集したデータを用い、次の論文執筆を進める。第2回調査の後に、また新たな論文執筆を開始する予定である。
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Causes of Carryover |
次年度使用額が生じた主たる理由は、第2回の現地調査を実施できなかったことである。加えて現地調査の交通手段について当初見積もりより安価な方法がみつかったこともある。また、学会発表も実施できなかったため、その旅費も次年度使用額に含まれている。 使用計画については、第2回調査を実施するが、これを2回に分けなければならない可能性がある。学会発表は国内発表を6月に行う予定であるほか、国際会議での発表を模索している。
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Remarks |
2017年5月20日に広島市南区民文化センターで開催した国際シンポジウム。英国コベントリー大学、信頼・平和・社会関係センター(CTPSR)、コスタリカの平和大学(UPEACE)、国連訓練調査研究所(UNITAR)と共同開催した。
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