2016 Fiscal Year Research-status Report
アフリカにおける多層的セキュリティ・ガバナンスの統合と交錯に関する研究
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16K03522
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
山根 達郎 広島大学, 国際協力研究科, 准教授 (90420512)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
片柳 真理 広島大学, 国際協力研究科, 教授 (80737677)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 平和構築 / 紛争解決 / アフリカ / セキュリティ・ガバナンス / 国連PKO / アフリカ連合 / EU / 地域機構 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は、アフリカの武力紛争に対する国連や地域機構による平和支援活動間の統合と交錯の多層的な様相について、セキュリティ・ガバナンス・アプローチから明らかにすることを目的としている。当該年度は、この目的に照らしつつ、その第一段階の研究として、先行研究の調査を進めつつ、研究報告を学術学会等で複数回実施した。 なぜ、アフリカにおいてはかくも多様なセキュリティ・プロバイダーが並立しうるのであろうか。その出現しつつあるガバナンス・メカニズムの特色はどこに見出されるのか。アフリカにおける紛争解決や平和構築の在り方を問うためにも、本件研究は上記の問題意識に立脚し、特に、国連PKO、アフリカ連合(AU)、欧州連合(EU)との間で構築されようとしているセキュリティ・ガバナンス構造について明らかにすることを目指している。 具体的に当該年度においては、セキュリティ・ガバナンス概念についての文献整理を行いつつ、まずは研究代表者と研究分担者との間で研究の発展の仕方について確認した。その際、研究代表者は、アフリカ地域全体への同概念の適応可能性についての論考を作成し、また研究分担者はソマリア事例についての個別の論考を作成した。この2本のペーパーを提出するかたちで、国内の学術学会(日本国際政治学会)でパネルを構成しつつ報告を実施し、これに対しては、討論者によるものをはじめ多数の有益なコメントをいただいた。 さらに、本件研究代表者と分担者の2名は、平和構築分野に関連するイギリスの研究機関において、同様の研究報告を英語で実施した。そのほか、研究代表者は、タイの研究機関においても同様の研究報告を英語で実施した。また、研究代表者は、別途、セキュリティ・ガバナンス・アプローチを通じたマリの事例についての論文を作成した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度には、文献調査、ならびに準備的な研究報告の双方において顕著な研究活動が実施された。研究代表者は、主に国連、EU、AUの取り組みについて、セキュリティ・ガバナンスの観点から論じた文献を渉猟し、分析の準備を進めるといった点については、ほぼ予定どおりに研究を進めることができた。その上で、日本国際政治学会において公募申請を経て採択に至った研究報告1回の他、海外の2つの研究機関にて本件の研究報告を実施することができた。 より具体的には、まず、本件研究代表者が客員教授として滞在したタイ・メーファルアン大学において同年8月、Security Governance in International Relations: Creation of New Security System or Simply Collapse of Sovereign State System in the Area of Security?と題して研究報告を実施した。 次に、同年10月に実施された上記学会の分科会において、「紛争解決・平和構築をめぐる多層的セキュリティ・ガバナンスの探求」と題したパネル報告を実施し、本件研究代表者と分担者の2名を含めた3名での報告が実現した(司会・討論者として足立研幾立命館大学教授)。多数の傍聴者が参加をする中、有益なコメントを得ることができた。ペーパーを提出した上でのこの報告は、研究内容をまとめ上げる上で重要な第一歩となった。 さらにその上で、研究代表者と分担者は、平和構築・紛争解決分野に多数研究者を擁するイギリス・コベントリー大学において平成29年2月、修正を加えた研究報告を実施した。また本件研究代表者は、同年度の後半には、別途、アフリカのマリにおけるセキュリティ・ガバナンスに関するチャプター論文(平成29年度発刊予定)を書き上げた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究1年目で実施した文献分析と研究報告での種々のコメントを踏まえ、セキュリティ・ガバナンス・アプローチのアフリカ事例により適した内容への修正とともに、現地調査を複数回実施する予定でいる。 本件研究は、これまで欧州内部における事例分析を中心に進められてきたセキュリティ・ガバナンス・アプロ―チを援用してきた。そこでは、2つの機能、すなわち、「制度構築」と「紛争解決」を実現させるための手段について、「保証(assurance)」と「強制(coercion)」の両観点から分析アプローチが構成されてきた。しかし、アフリカにおける多層的なセキュリティ・ガバナンスを検討する上では、必ずしもこの従来型の分析手法の定番だけではその実態を明確に浮かび上がらせることが難しいことがこれまでの研究で見えてきた。したがって、今後の研究の推進方策としては、これまでの研究を通じて見えてきたセキュリティ・ガバナンスの修正された分析構造について精査していくことになる。各組織間の制度構築の動態を調査し、統合局面の一方で交錯するそれぞれの意図(intension)と認識(cognition)の異同について明らかにしつつ、セキュリティ・ガバナンスにみる制度の「曖昧性」を吟味するため、規範形成の観点からのクリティークも同時に実施する。 これに関連して、本件研究者は、すでにコンタクトを取っている国連関係者らを往訪し、実施済みの文献レベルでの調査ではわからなかった諸点について聞き取り調査を行う予定でいる。
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Causes of Carryover |
平成28年度当初に予定していた国外出張については、初年度に作成した研究論文の執筆を踏まえることで、次年度以降により充実した聞き取り調査の実施に回すことになった。予定していたコベントリー大学での研究交流についてはすでに平成28年度10月の段階で実施する予定で調整していたが、先方の提案により単なる研究交流だけでなく、具体的な公開セミナーの実施を設定したほうがより充実した研究交流になるとの判断となり、平成29年度2月の実施となった。これにより、上記にある別の国外出張については次年度に実施するということになり、平成28年度使用予定額の旅費部分の差額が顕著となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度(平成29年度)において前年度予定していた国外出張計2回分について実施する予定となっている。
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Research Products
(5 results)