2017 Fiscal Year Research-status Report
「シルクロード経済帯」建設の政治効果:中国による新型国際関係樹立の試み
Project/Area Number |
16K03523
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
益尾 知佐子 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (90465386)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
ダダバエフ ティムール 筑波大学, 人文社会系, 准教授 (10376626)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 中国 / 一帯一路 / シルクロード経済帯 / ロシア / 中央アジア / ウズベキスタン / パキスタン / カザフスタン |
Outline of Annual Research Achievements |
プロジェクト2年目となる平成29年度は、中国が提唱するシルクロード経済帯および21世紀海上シルクロード(いわゆる一帯一路)構想について、中国の周辺各国におけるプロジェクト実施状況の検討を進め、相手国の対中認識の変化を考察した。ウズベキスタンでは特に詳細なケーススタディを実施した。その過程では、益尾が中国・ロシア、中国・インドなどの地域大国間の関係が実際のプロジェクトに与える影響を概観しながら、ダダバエフが中央アジアにおける中国と日本の関与アプローチを比較しつつ研究を実施した。 この作業から明らかになってきた点がいくつかある。第一に、中国の一帯一路プロジェクトの大半はAIIBの例外を除いてほぼ二国間で議論され、投資国となる中国に情報が集約されているため、ホスト国のバーゲニングパワーはかなり弱い。経済プロジェクトを通して、中国を中心とするハブアンドズポークス型の国際関係がアジアに形成されつつある。第二に、一帯一路プロジェクトは多岐多分野にわたるが、全体としてメディア一般が言うほど中国の国営企業の力は強くなく、政府の役割は民間を含めた企業どおしを結ぶ仲介者としての側面が強い。しかし、特に自由主義的な経済基盤の弱い中央アジアでは、政府が民間経済協力の後見人になることで互いの企業の信用を担保する機能を担っており、中国の手法には一定の合理性が認められる。第三に、政府主導で進められる一帯一路の成否には、各国の政治経済体制が強く関係する。中国と同様に権威主義体制にある国では、中国の手法は堅実と評価されやすいが、自由民主主義国との間では相手に対する期待値と現実との差が著しいため、プロジェクトに問題が生じたときにそれが拡大しやすい。 来年度は、これまでに獲得した各国の研究者とのネットワークを活かしつつ、一帯一路の実施状況のケースの相互比較を進め、アジアの国際秩序の未来を考察していく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
いくつかの困難に直面しながらも、研究プロジェクトそのものは概ね順調に進展している。 一帯一路は中国をさらなる対外開放に導く構想だが、習近平政権は実際には国内体制への締め付けを強めている。日中関係がまだ完全に回復していないため、日本の研究者からの面会アポ申請に中国側は必ずしも積極的に応じていない。さらに、これは一帯一路と関連して考えると興味深いが、ウズベキスタン国籍を持つダダバエフは国際会議出席の場合ですら中国訪問ビザが取れないでいる。一帯一路のいわゆる「沿線国」の学者が訪中を拒否されるケースは他にもでている。こうした理由のため、一帯一路の目玉となるはずの新疆での調査が本プロジェクトではまだ行えていない。一帯一路で最も実績が出ているのは、新疆発の中国・パキスタン経済回廊とされるが、安全確保の問題もあり、来年度中に現地調査が可能かどうかまだわからない。 第二の問題は、調査費の不足である。これは科研費プロジェクトの採択にあたって、研究経費が3割以上削減されたことによる。プロジェクトが実施できるのはありがたいが、渡航費のかかる中央アジアやロシア、また中国新疆での調査がままならないため、当初の申請内容通りの研究成果を出すことはおよそ不可能である。 それでも調査の進捗状況に大きな影響がないのは、一帯一路が国際的な注目点となっているため、周辺国の側からその実施状況に関する情報が出ることが多いからである。最近は特に南アジアからの情報フローが増えている。国際会議等に参加することで、情報そのものだけでなくその解析に関しても、(特に発展途上国を中心とする)他国の研究者から貴重な示唆を受けることがある。多くのケーススタディを蓄積し比較することが一帯一路プロジェクトの健全性を保つ鍵という現実的な指摘もあり、国際的に形成されつつあるこうしたトレンドをうまく利用しながら、工夫して研究を進めていきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度はプロジェクトの最終年度となるため、研究成果の発表(英語・中国語による論文発表、可能であれば共著書籍の刊行)を意識しながら、研究を潤滑に進めていきたい。 一帯一路のプロジェクトにおいては、中国では研究者の役割は現実的にはかなり限定されているようだ。構想の提案初期には彼らの役割が相対的に大きく、多くの研究者が宣伝用の論文書きに動員された。政府が主体的に社会のムードを盛り上げていかねばならない国との間では現在もこうした動きが継続しているが、そうでない国との間では、プロジェクトの実施はすでに企業体やそれらを結ぶ政府機構に委ねられている。しかし、中国国内で中央政府の官僚にアクセスするのはかなり難しいため、国内における一帯一路の実施体制を理解したければ、地方政府か、具体的な合作プロジェクトを請け負った比較的規模の小さい企業体にアプローチするしかなさそうである。 アクセスの難度という点では、むしろ中国と経済協力を進めている国の政府機関や企業を狙ったほうが、聞き取りのハードルが低い。また、彼らを新たな仲介人とすることで、中国国内の関連アクターにもアプローチできる可能性がある。もしくは、民間経済の力が弱く、中国が官の力をもってムード作りに励まざるを得ない地域では、多種フォーラムに駆り出される中国人研究者もさまざまなリソースを持つ場合がある。そのため最終年度となる平成30年度は、中央アジア諸国やパキスタンにおけるプロジェクトの実施状況を実証的に検討することで、中国国内の関連人脈にアプローチし、それを他の研究者が行なっている他地域の一帯一路の実施状況と比較する手法をとりながら研究を取りまとめていきたい。
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Causes of Carryover |
研究代表者の益尾について、書籍代およびデータベースの購入料(「その他」費目に計上)が想定よりも膨らんだ。そのため年度末にH29年度の予算の残額が約3万円となり、英語論文のネイティブチェック代をフルに捻出できなくなった。時期的に中国語論文の執筆とも重なったことから、英語論文は年度を跨ぎながら執筆を完了することとし、そのネイティブチェックは次年度初めに回すこととした。
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Research Products
(15 results)
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[Book] 中国外交史2017
Author(s)
益尾 知佐子、青山 瑠妙、三船 恵美、趙 宏偉
Total Pages
274
Publisher
東京大学出版会
ISBN
9784130322256