2016 Fiscal Year Research-status Report
「メコン地域」概念の誕生:メコン委員会からGMSへ
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16K03543
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Research Institution | Institute of Developing Economies, Japan External Trade Organization |
Principal Investigator |
青木 まき 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 地域研究センター東南アジアI研究グループ, 研究員 (90450535)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
今泉 慎也 独立行政法人日本貿易振興機構アジア経済研究所, 新領域研究センター, 上席主任調査研究員 (80450485)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | メコン / 国際関係 / 東南アジア |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は「メコン地域」概念の形成と地域協力制度化の様相を検証し、そこからかつて対立した国々が同じ地域の構成員として協力するに到った仕組みを解明することを目指している。平成29年度からの本格的な現地でのヒアリングや資料調査に先立ち、一年目にあたる平成28年度は、地域主義に関する理論的基盤の構築や、インターネットや国内図書館、資料室を中心に、メコン河開発協力に関連する報告書などの収集に注力した。また平成28年8月には、試験的調査として、中国昆明からタイ・チェンマイまでの陸路を車両で実走し、大メコン圏協(GMS)による道路開発やメコン河航路開発の実態について、地方自治体や国境税関などの実務担当者へヒアリング調査を行った。その成果の一部は「メコン河における国際河川航行協力の展開-水運航路開発から航行安全保障へ-」(アジ研ワールドトレンド2017年1月号第255号、34-42ページ)として公開した。 理論的出発点として、本研究では地域(region)を政策担当者間で間主観的かつ可変的に形成される社会構成物としてとらえ、協力の意志を相互了解したことを明示する仕掛けとして制度を捉える議論をいまいちど整理し、メコン地域開発にかかわる実務担当者の現状認識とそれがその後の現実に及ぼした影響に着目して、次年度以降の現地調査を行うことを確認した。さらに上述した試験調査の中で得た、メコン開発協力開始当初に当事者が機能的協力活動と平和構築とを密接に関連付けて考えていたという当時の関係者の指摘を踏まえ、こうした当時の関係者の認識とそれがのちの協力制度化に与えた影響を、ヒアリングや一次資料を通じて検証する作業を、次年度以降行うこととした。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度は、文献調査と資料収集に注力した。理論的枠組みに関しては、当初近年の地域主義研究にかんする先行研究整理を中心に行っていたが、議論の過程で、機能的協力と平和構築とを関連付けて地域統合を説明しようとした機能主義的地域主義の再検討が重要であるとの気づきを得て、E.Haasを中心とする機能主義論の再検討も作業に加えた。研究代表者と分担者が同一の機関に所属していることから、こうした議論については必要に応じて日常的に行うことができた。 一次資料に関しては、①アジア経済研究所図書館におけるメコン地域開発についての文献を収集した他、②インターネット上にあるメコン河委員会の年次報告書を収集し、その内容を整理した。また、③代表者が過去に収集したGMSの年次報告書およびGMSビジネスフォーラムの年次報告書を整理し、歴史的経緯を整理した。さらに平成28年8月に行った中国昆明-タイ・チェンマイ間の陸路調査では、地方自治体や中国雲南省シーサンパンナのラオス国境(モーハン)、ラオス・タイ国境(チェンコーン)税関などで実務担当者にヒアリング調査を行い、GMSによる道路開発やメコン河航路開発の実態についての情報を収集したほか、④メコン河上流域における物流インフラ開発と実際の貨物輸送量の変化に関する統計資料を入手し、実態変化を把握することに努めた。さらにこの調査ではバンコクにてアジア開発銀行の元GMS担当者と面会し、GMS設立の経緯について過去(2007年)に行ったヒアリング調査の内容を再び確認する作業も行うことができた。こうした成果を踏まえ、次年度のヒアリング調査に向けた実態把握のための作業を行った。
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Strategy for Future Research Activity |
2年目および3年目は、理論的枠組みの精錬を並行させつつ、海外における調査に力点を置く。国内調査としては、GMSに深くコミットしてきた経団連資料室や外務省外交記録・情報公開室での資料調査と合わせ、引退した元官僚、国際機関スタッフ(森田徳忠 元ADB プログラムオフィサーなど)へのヒアリング作業を通じて一年目に収集した資料を補足する。また海外調査として、メコン諸国の中でも地域制度構築に大きく関わったとみられるタイを中心に、メコン河委員会(MRC)やGMSの関係者へのヒアリング調査を行う。過去にコンタクトを取った関係者(ジンジャイ・ハンチェンラットGMSビジネスフォーラムタイ代表など)を介し、一年目に収集した基礎的情報をふまえ、メコン開発協力に長年関わる関係者(オーデット・スワンナウォンラオス国家商工会議所会頭、ホアン・ヴァン・ドゥンベトナム商工会議所代表)に対し、実際の組織成立時や重要な転機(例:1995 年メコン委員会からMRC への拡大改組、1996 年GMS マスタープラン策定)についてのヒアリングを行う。加えて、タイ国会図書館や各国の商工会議所資料室で、メコン地域開発協力にかんする国会審議議事録や商工会議所主催のセミナー資料といった一次資料調査を行う。
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Causes of Carryover |
購入を予定していた物品(PCおよびデジタルカメラ)について、所属機関の物品管理状況を勘案し、今年度中の購入を差し控えた。また、資料収集のために予定していた調査(タイ・ラオス)を一回分延期した(国内で当該資料が見つかったため)。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
昨年度中止した現地調査計画を実行する(6月または8月)。また、昨年度発表した成果(メコン河における航行安全保障にかんするペーパー)をもとに中国のメコン河河川管理を行う当局へのヒアリング調査を行い、GMSで開発したインフラの利用状況とその後の新たな課題について調査を行う(6月)。昨年度購入を見合わせた物品については、再度所属機関との調整のうえで購入する予定である。
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