2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03550
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Research Institution | Taisho University |
Principal Investigator |
今井 晴雄 大正大学, 地域創生学部, 教授 (10144396)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 多数決交渉 / 非対称均衡 / 格差 / レントシーキング |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、多数決交渉のもとでの提携形成を前提とした分配に先立つ段階での期待に基づく配分のパターンとその現実性を分析することである。平成28年度の研究成果は次の通りである。 1.これまでの理論的研究の成果である、非対称な投資戦略に基づく交渉ゲームの定常完全均衡について、見つかっている均衡の範囲を拡張することであるが、これまで見つかっていたのはやや複雑な均衡パターンであるのに対して、とくに4人以上の場合には、単純な代表例が含まれることを見出した。また、3人のケースでは、均衡の範囲が、相対的な認識確率の比率の下限を0にまで拡張することに成功した。また、上記の均衡の範囲の拡張に伴って、均衡配分の範囲もまた拡張されるが、とくに、3人ゲームでの、中位のプレイヤーが相対的に悪い配分を受け取るという効果が、4人以上には拡張されないケースが主となりそうであることを確認し、これが3人の場合の特殊結果である可能性が認識された。 2.費用の一般化は、当初2年度以降の課題としていたが、簡単な分析によって、3人のケースには、費用を一定でなくすことが均衡の存在そのものに影響を及ぼすことが予想されること、他方、4人以上のケースでは、連続的な変化が期待できることが確認できた。混合戦略均衡を見つけるという課題については、現状では非常に困難である旨、専門的研究者からの助言を得た。 3.実験による確認の可能性と、現実的な長期的効果については、カリフォルニア工科大学の実験結果を知ることができ、このモデルの結果に対して、形成される提携が固定化する傾向が見いだされることが明らかになった。 4.国際気候変動交渉からのフィールドデータについては、米国の新政権による、交渉離脱とも言える決定の影響を吟味する必要があり、昨年のCOPでは、選挙時点であったため、今後の動向を含めて資料の検討中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
実施計画のうち、初年度に関しては、均衡の範囲の確定と混合戦略均衡の確認可能性の見極めを主たる目標に設定していたが、いずれの項目においても一定の研究進展を見た。 (1)均衡の範囲については、n人ケースでの確定にはいまだ到達していないが、3人のケースにおいて発生する、投資の結果である認識確率の順位と利得の順位が逆転する現象が、どの程度まで一般的なn人のケースでも発生しうるかを確認できれば十分であるという目標設定が可能になった。証明のステップにおいては、n人の場合には、より単純な候補戦略を用いて例示を行っているものの、それ以前に採用していた、3人のケースの延長である戦略を、必要得票数であるqがn-1であるケースについて採用して、均衡を構築しているが、この場合の利得ランキングを確認することが次の目標ステップとなる。混合戦略均衡については、当面、主だった手法が有効ではないことが確認されたので、当面の優先順位を下げることとならざるを得ない。 (2)現実の格差問題とのリンクについては、カリフォルニア工科大学の実験結果から、形成される提携の耐久性がサポートされる結果となっている事実に照らして、事後配分がもたらす効果についても考察する必要があるという予想が得られている。また、各国での現実と照らし合わせる場合に、ここでの非対称均衡の事後分布は、低所得層の支持に支えられた一部エリートによる政権の構造と通じるものがあり、その方向での検証も有効であるとの予想を得ている。実験やフィールド研究においては、他の研究から有益な情報を得たり、国際環境交渉は政権交代の効果をここでの枠組みにどこから取り込むかと言う新たな課題が生じたため、まだいっそうの進展が必要ではあるが、年次進行計画の上では、ほぼ予定通りの段階にあるといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度の研究成果を基に、現行の論文に、均衡の範囲や、一般のケースでの対称性を可能な限り内包した均衡戦略による例示が可能になったなど、改定の余地が多数生まれている。このために、それを反映した改訂版の作成を第一におきながら、その拡張についての研究の推進を主たる目標に据える。主な課題は、費用の一般化における、パラメーターの設定方法や、多数決ルールの一般化であるが、前者については、線形費用の非線形費用による近似をまずここ見るという方針を立てている。また、線形費用のケースを拡張するという過程において、3人のケースが特異なケースとなる可能性が高く、他のケースとの比較が困難になるなど、その扱いについてさらなる工夫が必要となっている。 後者の多数決ルールについてはなお他の研究との関係も考察する必要があり、有効な手法を探索中である。このほか、事前の予想に基づく配分の決定と、事後の配分との両方の可能性に基づいて、モデルの動学化を分析する場合の対比を行うことが、下記の実験研究との関連において有効であると考えるに至った。このほか、タイ、ベネズエラなどの、政権の構造と、ここでの非対称均衡との類似性から、非対称コストのケースの均衡と結びつける可能性は考察に値するとの予想を持つにいたった。 実験研究やフィールドスタディの側面では、バランスキ等の実験研究での、形成される提携の持続性についての諸側面からの確認を行うことが考えられるが、現在の環境において可能な実験手法が何かについて、諸種の検討が必要で、関連研究者とも情報交換を行う必要がある。また、国際交渉問題に基づくフィールド観察に関しては、その前段階としての、形成された政権が与える将来枠組みへの影響について、理論的に検討を加える必要もあり、このような側面から再度フィールドデータを見なおす方針である。
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Research Products
(3 results)