2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03556
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Research Institution | Chuo University |
Principal Investigator |
松本 昭夫 中央大学, 経済学部, 教授 (50149473)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 時間遅延 / 非線形動学システム / 非線形性 / マクロ動学 / ミクロ動学 / 数値分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
マクロ変数の国民所得やミクロ変数の株価などにみられる不規則かつ持続的変動を「時間遅延」「不安定性」「非線形性」に焦点を合わせて理論的に考察した。三つの刊行論文の内,Metroeconomicaに掲載された論文は伝統的なIS-LMモデルの税金徴収に遅延を導入。税金の徴収に関しては固定的と考えられる場合と連続的と考えれ得る場合が併存するので、離散的遅延と連続的遅延の不達の場合の影響の違いを考察した。動学方程式はそれぞれ遅延微分方程式と積分‐微分方程式となる。まず各モデルの小域的な安定性条件を導出し比較をした。大域的な動学については数値分析を行いパラメータの値に応じて単純な循環からカオスを含む複雑な動学が生まれるることを確かめた。 Frontiers in Mathematics and Statisticsに掲載された第二論文は一つの金融資産,二種類のエージェント(fundamentlist, chartists)と三つの遅延を含む金融市場のエージェント・ベース・モデルを構築した。 チャーティストの需要は現在資産価格と過去の価格の移動平均との差に依存し、一方ファンダメンタリストの需要は現在価格とファンダメンタルとの差に依存すると想定。資産価格の変動は非線形の遅延微分方程式で記述され、二つの結果が解析的数値的に導かれた:(i) 単一の遅延しかない場合には市場価格はファンダメンタルの周りを周期的に変動する;(ii) 複数の遅延を想定した場合には遅延の長さが大きくなるに従い、安定と不安定が交互に現れてくるという現象が観察された。 Frontiers in Mathematics and Statistics に掲載された第三論文は価格関数が 双曲的である寡占市場の動学を考察した。投資費用の違いが動学にどのように影響するかを数値的分析したが、今後は時間遅延は含めて拡張予定。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ミクロ経済学の分野では以下の三つのモデルについて考察することができた:独占市場(需要関数に不確実性があり、時間遅れ(過去)の価格情報にもとづき需要の予想を改定する調整モデル)、寡占市場(線形ではなく双曲的な需要関数と労働制約と非負制約を明示的に考慮した非線形動学モデルの考察。カオスを含む複雑な動学が発生することを数値的に確認した。時間遅れの効果はは考慮していないので、次の課題である)、エージェントベースモデル(経済のファンダメンタルに依拠するファンダメンタリストと過去の価格データの傾向に基づき需要を決めるチャーティストによる構成される動学モデル。3種類の時間遅れを考慮したので分析はかなり複雑になるが、動学は数値的に調べた)による資産市場における動学に遅延が及ぼす影響を考察した。 またマクロ経済学の分野では伝統的なIS-LMモデル(政府の行動が税収入により規定され、税収入に関する時間遅れは離散的な場合と連続的な場合に分けて考察)やカルドア・カレツキーモデル(カルドアマクロモデルの基礎となるS字型投資関数とカレツキーモデルの基礎である生産の懐妊時間をもつマクロ動学モデルを構築し、資本ストックが一定とみなされる短期分析と資本蓄積を考慮した長期分析し、時間遅れの効果を考察)の遅延の効果について分析することができ、当初の計画とはそれほど齟齬を生まない程度の研究成果が出ている。
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Strategy for Future Research Activity |
新古典派最適成長理論に生産の遅延を導入して、最適経路への影響を考察する。資本蓄積に時間遅延を含み、最適配分が無限の時間 視野の基でおこなわれる場合、最適条件から導出されるオイラー方程式は遅延項(delayed terms) と同時に将来の期待項(advanced terms)が含まれる。これは直感的には、ある t 時点での消費と投資の配分を考えた時、投資は t+d(d は時間遅延)時点で生産資本となるので、 t 時点の最適配分は t 時点の消費と t+d 時点での消費のトレード・オフにより決まる為である。その結果、資本と消費の動学方程式体系は 「閉じていない微分方程式体系」となり、解析的には解くことが出来な い。経済成長経路がどのような性質を満たすかを調べるに は数値計算によるアプローチが有用になり。その為のアルゴリズムをまず確立する必要が ある。よく知られているように時間遅延のない Ramsey モデルの定常点は鞍点になるので、 安定多様体に乗らない経路は発散する。アルゴリズムもこの極度の不安定性を前提にして 構築する必要がある。おそらく唯一絶対のアルゴリズムは存在しないのでいくつかを試す 必要がある。 理論的な更なる展開方向として 少なくとも三つの方向が考えられる。1つは連続的な時間遅延を考えることである。これは過去から現在までの加重平均を現時点の期待値とするという考え方で、加重の密度関数をどのように想定するかにより様々な方法が考えられる。利点としては離散的な遅延の場合とことなり将来の期待項が動学シスムの中に入ってこないので、閉じた系として理論分析が可能になる。他の1つは伝統的な最適成長モデルではあまり考慮されていない、ロジスティクに変動する人口成長を新たな制約に加えるような拡張を行うこと。さらにや生産遅延を含む2部門経済成長モデルを考察することが考えられる。
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Causes of Carryover |
* ノートPCは予定通り購入できたが、数値分析用に購入予定であったMACのディスクトップのPCが使用予定のソフト(Scientific word)のアップグレードとの時期が合わず購入できなかった。また、年度末に開催した研究集会で招請した専門家の費用を他の助成金から支払うことでできたので、予定額との齟齬が発生した。Open Accessの雑誌に2本の論文が掲載されたが、ともに招待論文として掲載することができたので、予定との齟齬が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
非線形経済動学の国際学会(NED2017)に参加し、上述した時間遅延をもつ新古典最適経済成長モデルを数値分析をした結果を報告する予定であるが、数値計算のアルゴリズム作成している共同研究者にもこの学会に同道予定。さらにソフトのアップグレードが行われたので、このソフトとディスクトップのPCを購入予定である。
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Research Products
(8 results)