2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03559
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Research Institution | Tokyo University of Science |
Principal Investigator |
下川 哲矢 東京理科大学, 経営学部ビジネスエコノミクス学科, 教授 (30366447)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 意思決定 / 行動経済学 / 統計的パターン認識 / 神経経済学 |
Outline of Annual Research Achievements |
H28年度は、時間選好に関わる多くの要因の整理を目的として、申請書における実験1を実施した。申請書においては、選好の不安定性や形状、不確実性の存在、経緯や習慣形成の影響、肉体的な状態、情動や衝動性、イメージの容易性に関して、包括的な実験を行い、その後の統計解析によって、それら要因の非線形関係や包含関係などを明らかにする予定であった。 今年度の研究では、分析手法については、予定していた階層ベイズ推定による3層パーセプトロンによる分析だけでなく、疎性を持つカーネル法や自己符号化学習型Deep Neural Network(DNN)による分析も併用し、推定手法や前提とする関数系に分析結果が依存しないよう配慮した。 また、当初、実験では行動データのみを収集し、生体情報の取得はここでは行わない予定であったが、実験実施コストが比較的少ないEye-trackingデータと反応速度データの取得も行動実験と同時に行った。具体的には、コンピュータベースの実験システムを制作し、被験者のGUI上の視線と刺激定時からの反応速度を計測した。しかしながら、要因の包括的検討については、不確実性の存在、肉体的な状態、情動や衝動性、イメージの容易性のみに留まった。 それぞれの分析手法を比較すると、今回の実験データに限って言えば、最小二乗誤差はDNNが最小であるものの、交差検定結果は疎性を持つカーネル法が最も優れていた。またいずれの推定結果においても、要素間の非線形関係性をモデルに導入した方が予測精度は改善した。さらに各要素の重要性に関しては、不確実性の存在が有意に大きな影響を持ち、情動や衝動性とイメージの容易性が複合的で弱い影響を持つことが分かった。肉体的な状態については有意性を確認できなかった。 しかしながら、総合的には、これらの結果を確定できるほどに十分なサンプルが得られておらず、追加の実験が必要だと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
申請段階においては、選好の不安定性や形状、不確実性の存在、経緯や習慣形成の影響、肉体的な状態、情動や衝動性、イメージの容易性に関して、包括的な実験を行う予定であったが、この要因の包括的検討については、不確実性の存在、肉体的な状態、情動や衝動性、イメージの容易性のみに留まった。実験サンプルも結果を導けるほどに十分ではない。その点で遅れている。 しかしその一方において、分析手法については、予定していた階層ベイズ推定による3層パーセプトロンによる分析だけでなく、疎性を持つカーネル法や自己符号化学習型Deep Neural Networkによる分析も準備した。課題①の解決において、最も重要でかつ難しい点は、比較的少ないサンプル数から多くの要因の複雑な関係を解析しなくてはいけないことである。疎性を持つカーネル法は、少ない学習サンプルの下でも比較的良い予測を与えることで知られている。また、当初、実験では行動データのみを収集し、生体情報の取得はここでは行わない予定であったが、実験実施コストが比較的少ないEye-trackingデータと反応速度データの取得も行った。これらの点では予定を先んじている。 したがって総合的にはおおむね予定通りといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
H29年度は実験1の残りの部分と実験2を行い。成果の論文化を急ぐ予定である。 ②選好関係の通時的不安定性に関する検証:課題②を検証するために実験2を実施する。本研究では、脳情報をはじめとする生体情報を活用することで、情動的側面が通時的選好関係の変化にどのように影響するのかを特定する。この実験のために、脳情報近赤外光測定(fNIRS)、脳波(EEG)、皮膚電導反応(SCR)、容積脈波(BVP)、心電(ECG)等の、意思決定の記述に有効性を持つことが期待される測定デバイスによるマルチモーダル計測を行い、意思決定モデルへの生体情報導入の徹底を図る。 また、平成30年度は以下の3つの課題を分析する。主としてデータ分析を行う予定である。③消費の通時的独立性に関する検証:課題③の検証を目的として実験3を実施する。④個人差の影響:一般に意思決定実験において、被験者の属性や実験時の状況によって、大きな個人差が存在する。この問題を解決するために、上記1~3の実験において、個人差を分析する上でよく用いられる性格(たとえば5要因モデル)や心理的状態、ならびに被験者の属性に関するアンケートを実施することで、個人差を特定するためのデータの収集を行う。また技術面では、ディリクレ過程を用いたノンパラメトリックベイズ法により、個人差を持つグループを分類することを考えている。⑤アノマリーの解決:アノマリーには大きく分けて、個人レベルで観測される意思決定アノマリーと、マクロの市場レベルにおいて観測される市場アノマリーがある。ここでは、これら両面から、実験で得られた意思決定モデルを評価する。
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Causes of Carryover |
H28年度は予定よりも行動実験の被験者数が少なくなったため、被験者への謝金支払いや実験補助者への支払いといった実験実施に関する支出が予定より少なくなった。 その一方において、Eye Trackerの購入に伴う実験システムの拡張と深層学習を実施するために従来のコンピュータと高性能のコンピュータ入れ替えを行った。したがって物品費については、予算額を上回った。実施状況にも記載したように、結論を得るほどに十分な結果が得られなかったためその他の項目に計上された研究成果の発表用費用(主として論文化費用)が未使用となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度には、平成28年度に行われなかった実験を行う予定であり、その費用を人件費及び謝金に追加計上する(申請段階からの追加分150千円)。 また、論文化を急ぎ、平成28年度分の予算額を論文発表費用としてその他に追加計上する(申請段階からの追加分250千円)。
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