2016 Fiscal Year Research-status Report
広帯域無線産業の競争環境整備のための制度設計――「上下分離とEMM」導入
Project/Area Number |
16K03564
|
Research Institution | International University of Japan |
Principal Investigator |
鬼木 甫 国際大学, GLOCOM, 研究員(移行) (40107107)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 経済理論 / ミクロ経済学 / 産業組織 / 周波数オークション / 上下分離 / 協調寡占市場への競争導入 / 新規参入の促進 / 自然独占への対処 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、インターネット移動通信サービスを供給する「広帯域無線産業」に競争環境を導入するための制度・システムを設計し、制度の基盤について分析を加えることである。日本の同産業では、規模の経済と規制当局による電波の直接配分の結果生じた「暗黙協調下の寡占」状態が続き、消費者・ユーザの高負担・不便・不公平に加え、産業成長の減速を招いている。
これに対し米国においては、周波数オークションを含む競争促進政策が採用され、(規模は大小混在するが100を超える)多数の事業者による競争が同産業の成長に貢献している。本年度においては、放送用周波数帯を通信用に転用するための「インセンティブ・オークション」が実施された。同オークションは、テレビ放送用の600MHz周波数帯を放送用から広帯域無線用に転換することを目的とする。FCCは、2000局を超す放送事業者にテレビ・チャンネルの応札(リバース・オークション)を呼びかけ、他方では通信事業者による入札(フォワード・オークション)を反復実施するという市場メカニズム(多段階売買価格調整方式)を採用し、2016年-17年3月末まで1年間にわたって需給均衡価格を見出した。また需給調整の各段階において、放送用電波を通信用に(周波数帯・地域の2次元において)変換する作業も実施した。この種の市場形態自体はミクロ経済学で前例がなく、また日本における競争促進の参考にするため、同オークションの内容・経過を調査して学会発表をおこなった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
広帯域無線産業(BWI)においては、これまで産業活動の必須要件である電波(周波数帯)の稀少性が重要であり、競争の促進や新規参入の実現についても周波数帯(再)配分が主要な問題になっていた。他方最近の技術進歩により、次世代(第5世代、5G)通信においては、高い周波数の電波(センチ波、ミリ波)の利用が可能になり、その結果今後10-15年程度の期間後に電波の稀少性が緩和され、本産業の環境が一変するものと予想される。他方これらの高周波数電波については、到達距離が短いため多数のセル(電波到達範囲)の設定が必要となり、(電力配送に類似する)自然独占が発生すると考えられる。本研究ではこの事態に対応して、研究計画のうち(電波稀少性への対策である)「EMMの検討」よりも(自然独占対応策として有力な)「産業の上下分離」を優先して実施する予定である。
|
Strategy for Future Research Activity |
次世代(5G)のBWIにおいては、多数セルの重複から生ずる自然独占に対処するため、産業の上下分離を実施し、(自然独占の結果として不可避である)独占レイヤを、独占の弊害を抑制するために最小限導入することが望まれる。次年度以降の本研究においては、BWIの上下分離のための制度設計、とりわけ分離ポイントの設定、上下各レイヤ内における競争確保の方策、中間の独占レイヤ(公社、特殊法人等を想定)における「産業全体の観点からの望ましい(経済)行動原則」の記述と分析を実施する。
|
Remarks |
本代表研究者による研究成果一覧(発表年別、本事業以外の分を含む)については下記を参照。 http://www7b.biglobe.ne.jp/~ieir/jpn/publication/chrono.html#2016
|
Research Products
(3 results)