2016 Fiscal Year Research-status Report
資本主義の不安定性の研究:非主流派総合モデルによる経済レジーム分析
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16K03575
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Research Institution | Oita University |
Principal Investigator |
佐藤 隆 大分大学, 経済学部, 准教授 (50381025)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 資本の運動 / 資本主義 / 賃金主導型 / 利潤主導型 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は1)資本主義の不安定性を研究している非主流派の諸アプローチを比較検討する、2)諸アプローチを総合する総合モデルの試論を作成する、3)それらの諸アプローチの背後にある諸前提を明らかにする、である。 1)については、諸アプローチのうち重点的に供給説の検討を行った。従来の供給説では、利潤主導型レジームのみがモデル内で出現し、需要説が唱えるような賃金主導型レジームが出現しない。本研究では、その原因を以下の2つに求めた。第1にセー法則の仮定によって独立した投資関数が存在しないこと、第2に完全稼働の仮定によって稼働率が独立変数とならないこと、である。そこで、satoh[2016a]ではこの2つの想定を外し、ミクロ的基礎を持つマルクス型投資関数を導出し、かつその変数に稼働率の代理変数を組み込むことで、賃金主導型レジームが現出する条件を究明した。さらに、賃金主導型レジームでは複数均衡が観測され、そのうち均衡解が不安定であるような解が存在する可能性が確かめられた。 2)についてはSatoh[2016b,2017]において総合モデルの試論を発表した。そこではいくつかの経済諸変数のどれを不感応的なパラメータとして取り扱い、どれを内生変数と考えるかによって、非主流派のアプローチを類別化することが可能であることを示した。 3)は今までの諸アプローチが採用してきた仮定を、さらにその背後にある公理から導き出すことを試みた。佐藤[2017]は、諸アプローチでは捨象されていた生産・流通・分配などの過程分析を明示的に導入し、それらの過程を複式簿記の諸規則を用いて記述することによって、ほとんどの諸アプローチが採用しているケンブリッジ方程式を導き出すことに成功した。この記述方法は非常に一般的であることから、今後金融などの領域に拡充する際の方法論的基礎を確立することができたと考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初予定していたのは、研究の第1段階である非主流派の諸アプローチの比較検討であった。しかし本年度はさらに進んで、第2段階の諸アプローチの総合モデルの試論までを完成させることができた。また、国際的な学会において、予定回数よりも多く発表の機会を得られた。これは予想よりも速いスピードで研究が進捗している証拠である。なおかつ、海外との協力者との交流もEastern Economic Associationのconferenceで発表機会を得られたことによって確保することができた。ただし、学会発表の時期が2017年2月末であったため、海外雑誌への投稿が年度をまたがざるを得なかった。
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Strategy for Future Research Activity |
個別アプローチを比較検討した結果、それらが暗黙に想定としている諸前提があることが明らかになった。本年度は、それらの諸前提を可能な限り明示化して諸アプローチの採用する仮定を弱めるとともに、諸個別アプローチを総合した総合モデルの試論を完成させるよう傾注する。前提の明示化の方向性としては、国内学会および国際学会での発表を予定している。そこでは1部門モデルで考察されていた経済を一般的な多部門モデルに拡張できるかどうか、また特に供給説が依拠していた資本循環の考え方を可能な限り操作性の高いモデルにまで再構築できるかどうか、これらが考察の対象として新たに上ってきた。今後の課題としたい。
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Research Products
(4 results)