2017 Fiscal Year Research-status Report
ヴェブレンの経済学再建構想の検討:生物学,人類学および優生学との学際的相関の論理
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16K03580
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
石田 教子 日本大学, 経済学部, 准教授 (90409144)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 人間本性 / 本能 / 習慣 / 経済行動 / 因果関係 / 質 / 大戦争 / 平和 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、顕示的消費(見せびらかしや見栄の消費)や製作本能(モノ作りの動機)に着目した経済学者ヴェブレンの経済学方法論の起源を、従来研究のようにダーウィンの生物学だけに求めるのではなく、人類学や優生学を含む隣接諸科学にまで範囲を広げて考察することである。平成29年度の具体的な活動は、これまでの研究成果を広く社会に発信することが中心となった。 平成29年度の研究活動においては、2つの課題に取り組んだ。本研究は原則としてヴェブレンの「人間本性モデルの再考」を思想史的に位置づけることを目指すが、第1の課題は彼の「記述の方法論」の論理構造を読み解くことであった。この点に関しては、その人間本性論の特性が人間-社会間の捉え方や歴史観にも影響を及ぼしていること、またそうした方法論的立場が経済に関する因果関係認識に対しても独特の視角を提供している点を明らかにした。この成果については、9月初旬に開催されたオーストラリア経済思想史学会(HETSA)の年次大会において報告した。 第2の課題は、上記のような人間本性論を念頭におきながら、彼の「時論的考察」の読解に着手することであった。一般にヴェブレンは、政治的立場を明確に提示したり、政策提言をはっきりと打ち出すことはなかった経済学者であると考えられている。しかしながら、第一次世界大戦(大戦争)中においては必ずしもそのようには結論づけられないことが判明した。ヴェブレンは、ウッドロウ・ウィルソン大統領の14カ条の平和原則(Fourteen Points)の起草に関わった調査委員会(The Inquiry)に対して、自身の平和構想および対外貿易政策に関する覚書を送付した事実があるからである。その中間報告は、「経済学方法論フォーラム」および「戦争と平和の経済思想研究会」において行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初から予定していた既発表論文(目的論および機械論に関するヴェブレンの考察の含意を再評価する)の英文化はあまり進められていないため、その点にだけ着目するなら、一面では研究の進捗状況はやや遅れていると言わざるをえない。 しかし、本研究の土台となる「人間本性モデルの再考」に関わる「記述の方法論」の研究に関しては、その成果を国際学会(HETSA: History of Economic Thought Society of Australia)において報告し、さまざまな分野の諸家から有意義な助言を得ることができた。当初の計画では、国際学会での報告は最終年度に予定していたため、研究成果の発信に関しては当初の計画以上に進んでいると評価できる。また、同研究の邦文論文の公表の目処もたちつつある。平成30年度には、共同研究成果を編んだ共著として刊行される予定である。加えて、当初の計画では、問題の抽出に着手できれば良いとしていた「時論的考察」に関しても、論文の下書き、研究報告を行うことができた。 以上のことから総合的に判断するなら、本研究はおおむね順調に進展していると評価しうる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成30年度は、5つの課題に取り組む予定である。 (1)平成29年度にオーストラリアで研究報告を行ったさいのfull paperに加筆修正を行い、英文論文として改訂、および学術雑誌へ投稿することを目指す。 (2)後期ヴェブレンのマニュスクリプト等を所蔵するカールトン・カレッジ(ミネソタ州ノースフィールド)を再訪し、大戦争前後の彼の思想の変遷を跡づけるための資料収集を行う。 (3)ヴェブレンの人間本性論の形成過程に初期ジョン・ベイツ・クラークの講義がどのように影響を及ぼしたのかを探る。一般にクラークは正統派と位置づけられる新古典派経済学のアメリカにおける代表者であるが、クラークとヴェブレンは理論的には次第に対立していったというのが定説である。だが、クラークはカールトン・カレッジにおけるヴェブレンの師であり、当時人類学に重きをおく講義を行っていたことが分かっている。ヴェブレンが生物進化論とともに人類学を経済学が吸収すべき方法論モデルと位置づけていた事実に鑑みれば、クラークのヴェブレンに対する影響を同定することは、ヴェブレンの経済思想の形成をたどる上で重要な論点であるといえよう。したがって、カールトン・カレッジでは自校史資料にもアクセスし、この論点を検証する予定である。 (4)既発表論文「ヴェブレンの進化論的経済学における目的論の位置」および「ヴェブレンの進化論的経済学における機械論の位置」の翻訳作業を進める。 (5)最後に、これまでの研究成果を取りまとめる準備を開始する。具体的には、平成32年度のアメリカ進化経済学会(AFEE: Association for Evolutionary Economics)における発表(2019年4月エントリー、2020年1月大会報告)を目指し、具体的なテーマや問題設定を明確化することを目指す。
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Causes of Carryover |
平成29年度は、当初予定していなかったが、国際学会へ参加する機会に恵まれた。しかし、予定された交付決定額ではこのオーストラリア出張の費用をまかなうことができなかったため、前倒し請求による支出を行う判断をすることになった。したがって、支出計画にに多少の変化が生じ、わずかではあるが使い切れない部分が残ってしまった。これらの部分に関しては、平成30年度において発生すると考えられる消耗品等の支出に充てる予定である。
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