2017 Fiscal Year Research-status Report
イギリス限界革命期のミクロ経済学の形成:市場の制度設計の視点の萌芽とその消失
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16K03582
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Research Institution | Meiji Gakuin University |
Principal Investigator |
中野 聡子 明治学院大学, 経済学部, 教授 (20245624)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ミクロ経済学 / 限界革命 / エッジワース / 外部性 / 契約モデル / 不決定性問題 / 不均衡理論 / 不確実性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、イギリスで1870年から90年にかけて、ミクロの主体行動分析が市場均衡理論の基礎として連続的に考案されたという既存の解釈を修正し、むしろ当初は不均衡過程の基礎理論として登場してきたことを、資料精査と理論評価の両面から明らかにしようとする。2017年度において2本の論文と1本の共著書の原稿の執筆及び国際学会発表を行った。第一に規模のパラメトリック外部性と呼ばれる、近年使用される生産の収穫逓増下の分析手法が、エッジワースの考案によることを資料に基づき示すと同時に、その意義を考察した。第二に、その内容を英文論文にし、北米の学会で報告した。第3に、エッジワースのボックスダイアグラム及び契約モデルについての近年の研究をサーベイし、その不決定性問題における意義を考察した。第4に「戦争と平和の経済思想―経済学の浸透は国際紛争を軽減できるか。」という趣旨の書籍の1章を構成する原稿「エッジワースの契約モデルと戦争論:戦争状況のモデル化への試み」を執筆した。これらを通じて、1880年代から90年代にかけての早い時期に、現代の外部性や主体間の行動の相互依存を通じて、可能な生産技術などの経済環境が選択される問題が分析され始めていたことがわかり、いわゆる収穫逓減の技術環境における市場均衡理論に限定されていないことが判明した。そして、そのようなより広い経済環境下でのミクロ理論の構築の問題は、当初から不決定性の問題としてエッジワースによって考察されており、その背後で社会の戦争状況の概念化が試みられていたことがわかった。また、その中で不確実性下の経済行動分析について、今日の観点からも十分評価に足る多様なアイディアが含まれていることが見出された。この方向性は、ミクロ経済学形成の理解が大幅に修正される可能性を含む。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
エッジワースの戦争論を視野に入れた研究は当初の計画にはなかったが、「エッジワースの契約モデルと戦争論:戦争状況のモデル化への試み」の原稿執筆を通じて、エッジワースの契約モデルの構想が、1882年の段階で、不決定性の問題として広範な社会の戦争状況を含んだ形で概念化されており、不確実性下の経済行動分析について、今日の観点からも十分評価に足る多様なアイディアが含まれていることが見出された。そのため、ミクロ経済学形成の理解が大幅に修正される可能性を含んでいると考えられるから。
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Strategy for Future Research Activity |
今後次の2点を行う。まず、2017年度発表した英文論文を投稿する。1. “Edgeworth's formalization of parametric external economies as a germ of a game theoretic view: What was the hard core of the British Marginal Revolution?” 次に、本研究課題の最終的な目標の一つである論文、つまりエッジワースの極点定理の学史上の位置付けを行う。2. “Edgeworth’ insight into his Limit Theorem appraised in the history of economics” エッジワースの 極限定理は、エッジワースのMathematical Psychics (1881)にその洞察があることは知られてきたが、エッジワースの孤立的な業績としてしか解釈されてこなかった。イギリスの限界革命期のミクロ経済学の形成の内実を解明することにつなげる予定である。
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Causes of Carryover |
昨年度戦争論との関係で明らかになったエッジワースの契約モデルの特性をまとめることに時間がかかり、2017年度から本格的に展開する予定であった文献収集のための出張を2018年度に遅らせたため。以下の各地に散在する資料調査に本格的に展開するため支出予定である。1)Edgeworth papers at Nuffiel d College, Oxford 2)Edgeworth papers at the British Library of Political and Economic Science of the London School of Economics Keynes Papers, Marshallian Library, Cambridge 3)Wicksell papers, Lund University 4)Foxwell papers, Baker Library, Harvard University. 関西学院大学 5)Harrod papers, 千葉商科大学 6)Golton papers and Peason papers, University
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