Project/Area Number |
16K03601
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
林 高樹 慶應義塾大学, 経営管理研究科(日吉), 教授 (80420826)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 高頻度データ / マーケット・マイクロストラクチャ / 統計解析 / 先行遅行分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
初年度は, 研究計画書内のステップ(1), 国内3株式市場間の相違, 2014年の東証ティックサイズ変更前後の変化を切り口に, 探索的データ分析に焦点を絞り研究を進めた. 特に, (1-c)内, 3市場間の先行遅行関係分析に関する研究において, 以下の2つのプロジェクトが大きく進展した. まず, 3市場間の先行遅行の実証分析を、Dobrev and Schaumburg(2015)による先行遅行時間推定法を採用して行った. 同方法論は既存手法に比べて精度の高い推定が可能な一方, 提案されて日が浅く応用は殆ど皆無である. 東証において流動性の高い100銘柄について, 2013年からの2年間のミリ秒刻みデータを用いて3市場間の先行遅行関係を分析した. 結果をまとめた単著論文を国内学術誌に投稿した(掲載確定). 次に, 首都大学小池祐太氏と共同で, ステップ(1)のほか(2)(3)にも利用可能な新たな統計的方法論の開発に着手した. これは信号処理分野を中心に応用が進む「ウェーブレット法」により, 証券価格の変動を周期の異なる成分に分解し, 各成分毎に先行遅行時間を推定する方法論であり, 新規性が高いと考える. 多様な市場参加者の取引によって価格形成がされるという金融証券市場の異質性仮説にも整合的なアプローチである. 小池氏との共著論文を国際学術誌に投稿した. 学術誌への投稿と並行して, 国際会議5件, 国内会議2件の口頭発表を行った. とりわけ, 数理ファイナンス分野での2年に一度の世界大会Bachelier World Congress (ニューヨーク) におけるプレナリー講演者の一人に選ばれ, また, 高頻度データ分析・マイクロストラクチャ分析の最先端の研究者が集まる2年に一度の国際会議 (パリ) で招待講演者の一人として, 研究成果を世界に発信する機会を得た.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は, ステップ(1)の価格板情報を使った探索的データ分析にフォーカスして研究を遂行した. 研究計画書に記載した具体的題材として, (1-a)3市場の価格競争力, 市場クオリティの比較分析, (1-b)オーダーフロー分析, (1-c)3市場間の連動性の分析を挙げたが, この内, (1-c)の分析, 特に3市場間の先行遅行関係分析に関する次の2件のテーマが大きく進展した. 年度を通してこれらに注力した結果, (1-a)(1-b)はエフォートの観点から遂行を見合わせた. 研究の進展可能性の観点から, 今年度以降も, 継続して(1-c)に注力する方針である. 具体的には, まず計画書記載の先行遅行時間推定法として先駆的なHoffmann, Rosenbaum and Yoshida (2013)の代替的アプローチとして, Dobrev and Schaumburg(2015)の方法を採用し, 国内3市場価格間の先行遅行時間を推定しその先行遅行関係の要因を調査した. 採用方法はタイムスタンプのみを使用するため, Hoffmannらの方法の弱点である, 価格データに含まれるノイズやジャンプの存在に対する感応度の高さを有しない. 一方, 提案されて日が浅く応用は殆ど皆無である. 初年度の実証分析成果は和文誌に投稿したが, 実証分析を継続することで更なる実証的発見が得られる可能性がある. 次に, ステップ(1)に加えて(2)(3)の実証分析にも利用可能な, 「ウェーブレット」を応用した統計的方法論の開発に, 首都大学助教小池祐太氏と共同で着手した. この方法論は, 新規性が特に高いと判断されることから, 次年度以降は, 今年度よりも優先順位を上げたい. 同方法論に関する研究開発の推進, および, これを市場データに適用した実証分析に取り組みたいと考えている.
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Strategy for Future Research Activity |
初年度, 研究目的(1-c)の研究を進める中で, 信号処理分野を中心に応用が進む「ウェーブレット」をベースとした先行遅行時間推定の方法論を提案することができた. PIらの知る限り, ウェーブレットを証券価格間の先行遅行時間の推定に用いるのは世界初の試みである. 初年度の成果を踏まえた今後の研究開発および応用可能性の広がりは大変大きいと認識している. よって, 次年度以降は, 当初研究目的の方向性は維持しつつも, (2)(3)のウェイトを高める代わりに(1-c)の深化を図ること, 特に, この新たな方法論の理論研究ならびに応用研究を進めることにウェイトを高めて, 研究の推進を図ることに軌道修正したい. 成果の発信は, 今年度と同様に, 次年度以降も積極的に行っていきたい. 課題として, 大規模な高頻度データの実証分析には, データのクリーニング作業や, プログラミング, 結果の集計等の分析作業等, 長時間の労働集約的作業が不可欠である. 大量データの中, データの加工・分析作業過程においてエラーの発見が難しく, 初期段階で一旦間違えるとその後の作業が全て無駄になってしまうことになりかねない. また, データ処理や分析作業には, プログラミング・スキルに加えて, 証券市場の取引の仕組みなどに関する専門的な知識が必要である. そのような中, PIのデータの加工・分析をサポートしてくれるような院生やアルバイトを見つけるのは困難である. マンパワーの絶対的不足が, 本プロジェクト推進の上での最大の障害となっている. 今後は, このような専門性を持有している研究者や, 院生などの研究協力者の確保などの研究体制の拡充可能性も検討したい. 合わせて, 効率的にデータ処理や分析作業を行えるようなハードウェアやソフトウェアの環境整備も検討したい.
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Causes of Carryover |
当初予定していたApple社製ワークステーションは, より性能の向上した新型が出るとの観測が流れたため購入を控えた. 一方, 当面の分析作業を実行するための代替的対応として, 相対的に廉価なノート型PCを購入したため, 差額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
差額分は, 次年度分と合わせて, 分析作業を効率的に行うため, 高性能の新型ワークステーションの購入, さもなくば, 大容量ストーレッジやソフトウェアの購入など, システム環境の整備に充当する予定である.
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