2017 Fiscal Year Research-status Report
データ駆動型アプローチによる高頻度での金融資産価格形成メカニズムの研究
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16K03602
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
中妻 照雄 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (90303049)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 金融高頻度データ / 取引間隔 / ボラティリティ / 日中季節性 / 板情報 / ベイズ推定 / マルコフ連鎖モンテカルロ法 / モデル選択 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成29年度は、平成28年度から引き続いて、金融市場における高頻度データ(取引単位で記録されたデータ)の特徴を捉えることができる時系列モデルの構築とそのベイズ推定のための手法の開発に取り組んだ。特に(1)市場で取引が成立する(約定する)間隔のモデル化と(2)短期間における資産収益率のボラティリティ(分散)のモデル化という2つのテーマに注力した。 第1のテーマである約定間隔のモデル化においては、日中季節性と呼ばれる高頻度データ特有のパターンに注意しなければならない。日中季節性とは、金融市場における取引の約定間隔は市場が始まった直後と閉まる直前で短くなり、途中の時間帯では反対に長くなる傾向のことを指す。平成28年度の研究成果として、日中季節性を時系列モデルの中で他のパラメータと同時にマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法でベイズ推定する方法の開発に成功した。これを受けて平成29年度は、応用対象をマイクロ秒単位で取引データを入手できる東京証券取引所の個別銘柄に移し、板情報(ある時点での売買注文の状況 )を活用した約定間隔のモデル化を研究した。その成果を平成30年度中に開催される国際学会で報告する予定である。 第2のテーマにおいても日中季節性の処理が重要である。しかし、ボラティリティの場合は、先ほどの約定間隔とは逆に、市場が始まった直後と閉まる直前でボラティリティは大きくなり、途中の時間帯では小さくなる傾向が見られる 。この研究においても平成28年度中に日中季節性をボラティリティ・モデルの中で他のパラメータと同時に推定する方法を確立できた。これを受けて平成29年度には、約定間隔と同じく東京証券取引所の個別銘柄の取引データを対象に板情報を活用したボラティリティ変動モデルを研究した。この成果も平成30年度中に開催される国際学会で報告する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成29年度は、平成28年度の予算で購入した高速計算が可能なワークステーションを最大限に活用して、各種の数値実験を繰り返し行うことができた。この作業は研究代表者が指導する2名の大学院生(中北誠、鳥谷部智規)が分担して担当した。 この数値実験を通して、約定間隔のモデル(SCDモデル)と変動するボラティリティのモデル(SVモデル)という、2種類の複雑な非線形時系列モデルのベイズ推定のために開発したアルゴリズムの安定性の検証をを行い、大量の高頻度データに対しても十分実行可能であることを確認できた。さらに予算で購入した東京証券取引所の個別銘柄の取引データのクリーニングとデータベースの構築を進めたが、ここでもこのワークステーションの計算能力と中北、鳥谷部、両名のプログラミング技能が大いに貢献している。結果としてアルゴリズムの開発とデータの整理が順調に進んでくれたため、実証分析の段階までスムーズに進むことができた。
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Strategy for Future Research Activity |
3年計画の最終年度である平成30年度は、まず平成29年度までに開発したマルコフ連鎖モンテカルロ(MCMC)法によるベイズ推定のアルゴリズムを活用し、板情報を組み込んだSCDモデルとSVモデルを東京証券取引所の個別銘柄の取引データに対して推定する。そして、板情報が約定間隔やボラティリティに与える影響を検証する。さらにイギリスのEU離脱を決めた国民投票やドナルド・トランプの米国大統領当選などの大きなニュースが資産価格形成に与える影響を検証するため、ニュースの効果を明示的に組み込んだモデルの拡張を目指す。これにより、ニュースの効果が価格に織り込まれる過程を高頻度データを使って緻密に分析することが可能となる。研究の進行を捗らせるため、研究協力者として、もう1名の大学院生を研究チームに追加し、作業を分担してもらう予定である。
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Causes of Carryover |
平成30年度には2つの国際大会で研究報告を行う予定である。そのための旅費と参加登録費などに使用する目的で、平成29年度は物品費の支出を抑え平成30年度に繰り越した。
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