2016 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける高度専門人材の国際移動と人的資本蓄積
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16K03609
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Research Institution | Tokyo University of Foreign Studies |
Principal Investigator |
宇野 公子 東京外国語大学, 大学院総合国際学研究院, 教授 (80558106)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 教授 (80159524)
加藤 真紀 一橋大学, 森有礼高等教育国際流動化センター, 講師 (80517590)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際人口移動 / 人的資本蓄積 / 多国計量モデル / 2国動学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はASEANを始めとする途上国経済を中心に,高度専門人材の移動状況と人的資本の蓄積に与える影響を,データ比較分析・モデル定式化・計量分析等を通じて実証することを目的とする。28年度は,関連文献のサーベイを進めると共に,博士論文の指導を介して研究を進め,得られた成果を「マラリア影響下の幼児教育」(英文;「言語・地域文化研究」23号)と,「バルカン諸国における企業活動:多国籍企業と中小企業」(英文;応用地域学会)において発表した。特に前者は,年間50万人を超えるマラリア犠牲者の約9割がサハラ以南のアフリカと南アジアに集中することから,当該地域における早期幼児教育(ECD)の重要性を,インド保健家族省のミクロデータを用いて,統計的に検証するものである。次に途上国を移民先に含む,初めての包括的な国際移動データベースであるArtuc et al.(2015)を用いて,ASEANを始めとする地域連合内外における高技能労働者の移動と高等教育の双方向の関係を実証的に分析し,"Skills Mobility and Postsecondary Education in the ASEAN Economic Community"と題する論文にまとめた。ASEANは,他の地域連合(NAFTA等)に比べて域内移民に占める高学歴率が低く,高学歴移民は移民元の人的資本蓄積の結果と見ることができる。第3のサブテーマである,教育と人的資本を導入した拡張Solow型2国モデルの開発に関しては,「2国2階層経済変動モデルの解とその存在条件に関する研究」と題する修士論文を通じて研究を進めた。具体的には,先進(人口減少)国と途上(人口増加)国の併存を想定した世界政府(最適制御)問題を定式化し,数値解析により過渡解を得ることを試みたが,解が存在するパラメータの組合せは極めて限定的であることが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度は 人的資本の蓄積及びその国際移動と経済成長の関連を含む,近年の関連研究に関する文献調査を行い,研究上必要となるデータ収集を行った。これには受入れ移民数に関する国間データ,高技能労働者に関する国間移動データ,人的資本に関しては就学率に代表されるフローデータ及び学歴別人口等のストックデータが含まれるが,このうち高技能労働者の移動に関しては,1990,2000年の2年次について60乃至90ヶ国間のデータが利用可能である。「実績の概要」に記した,ASEAN諸国における人的資本蓄積と,域内及び域外との人的交流の因果関係に関する計量分析は,このデータに基づくものである。 それ以外にも,インドにおける幼児教育や母親の学歴と,子供の就学・修学状況の関連や,代表的国際学術誌("Nature"と"Science")の著者データを用いた研究者の国際移動の要因分析など,人的資本に関する実証分析を進め,一部は論文として出版している。理論面では,教育と人的資本を導入した2国拡張Solow型経済成長モデルを,世界政府の最適制御問題として定式化し,数値シミュレーションを通じて過渡解の分析を行った。その結果は,修士論文(横山智裕:2国2階層経済変動モデルの解とその存在条件に関する研究)としてまとめられている。以上の成果から,本研究課題の進捗状況は「概ね順調」であると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
研究代表者の所属機関異動に伴い,29年度は新任校におけるゼミ体制の再構築を,最優先で進める必要がある。ゼミ生に関連文献を読ませ,国際開発分野の知識を深めさせると共に,データベースの作成・編集作業に当たらせる。これには以前に科研費を得て作成した,途上国全体をカバーするパネルデータの年度更新が含まれるが,併せて卒業研究を通じて本研究課題の推進に寄与できるよう指導したい。またASEAN域内の人的資本蓄積と高技能労働者の移動に関するWorking Paperを,アジア開発銀行(ADB)の研究者との共同研究を通じて発展させ,ADBから刊行予定の書籍の一章として完成させる予定である。 2国動学モデルに関しては,当初から解が存在するパラメータの範囲は限定的であることが予想されたが,28年度の数値計算では,モデルが含む22個のパラメータ・外生変数に複数の値を設定して得た117ケースのうち,最適経路が得られたものは5ケースに留まった。今後は計算プロセスの効率化を図ることで,パラメータ空間内で解が存在する領域を包括的に調べ,論文に発展させる必要がある。
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Causes of Carryover |
平成28年度は,研究代表者及び一部分担者の所属研究機関における最終年度であり,新たな物品等の購入は移管手続きを発生させる等の事情により,次年度に支出を繰り延べることが適当であると判断したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記理由により繰り延べていた物品(ノート型PC等)について,年度当初に購入を計画しており,新所属機関への異動に伴う研究の中断が最小限に留まるように配慮している。分担者についても,予算の計画的執行について要請している。
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