2017 Fiscal Year Research-status Report
アジアにおける高度専門人材の国際移動と人的資本蓄積
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16K03609
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Research Institution | Gakushuin Women's College |
Principal Investigator |
宇野 公子 学習院女子大学, 国際文化交流学部, 教授 (80558106)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
安藤 朝夫 東北大学, 情報科学研究科, 名誉教授 (80159524)
加藤 真紀 一橋大学, 森有礼高等教育国際流動化センター, 講師 (80517590)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際人口移動 / 途上国経済 / 人的資本形成 / 多国計量モデル / 2国動学モデル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はASEANを始めとする途上国経済を中心に,高度専門人材の移動状況が経済発展と人的資本蓄積に与える影響を,データ比較分析・モデル定式化・計量分析等を通じて検証することを目的とする。29年度も前年度に引き続いて関連文献のサーベイを進めると共に,2月にはニューヨークの国連機関等(Office of the Special Adviser on the 2030 Agenda for Sustainable Development and Climate Change, Bureau for Policy and Programme Support(国連開発計画), Office of Special Advisor on Africa, Financing for Development Office(経済社会局)他)を訪問し,SDGs(持続可能な開発目標)の実施状況,高度専門人材の国際移動と人的資本蓄積,OECDとASEAN諸国間の人口移動に関する国連の取組み等について,現地担当職員との意見交換及びデータ収集を行った。また長期留学と海外就職との関連を考え、日本人学生の長期留学を説明する要因としての短期留学の効果について計量分析を行うと共に,Edward Elgarから出版予定の,ASEAN諸国における高技能労働者の流動性に関する書物(E. Gentile編)について,"Skills Mobility and Postsecondary Education in the ASEAN Economic Community"と題する章の分担執筆を行った。 既存の空間応用一般均衡(SCGE)モデルでは,運輸部門が単なるサービス部門として扱われるため,交易に基づく空間価格均衡を表現できない。従って運輸部門の役割を明示的に扱うモデルを提案した論文を執筆したが,その改訂について検討を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成29年度は研究代表者及び一部分担者の定年退職の直後に当たるため,代表者にあっては新勤務先への異動,分担者にあっては家族介護の発生に伴う新しい研究体制の構築に時間を要したことにより,研究上若干の遅れが生じている。特に大規模なデータを扱う研究では,ゼミ学生等による研究補助が成果に寄与することは否定できないから,前任校における博士論文の指導等を通じて,本課題の研究を効率化する体制を整えたところである。ただし文献調査に関しては,研究体制の構築とは無関係に進めて来ている。 理論面では,2国2階層動学モデルプログラムの見直しを行っている段階である。本課題では,特定パラメータの下での求解に留まらず,多様なパラメータの組を試して解の存在領域を調べるという逆解析的アプローチを採る必要があり,従って計算プロセスの効率化が必須になるからである。また経済活動のグローバル化の進展に伴い,途上国経済も国際的なサプライチェーンに組み込まれているから,いわゆる付加価値貿易モデル(VAiT)モデルの枠組みで,富や温暖化ガスの帰属を明確化するための概念整理にも取り組んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
東京外国語大学国際関係研究所「国際関係論叢」第2巻所載の,"Contribution to economic growth by human capital: The comparison among BRICs"のデータを拡張し,再検証を行う。当該論文は,アジアの新興国・途上国における経済成長と移民の関係を分析することを目的としており,貿易自体が国際競争を通じて,効率的な生産のためのインセンティブとなり、生産を通じて労働者の能力向上を促す可能性に着目した。特に労働移民は,出身国経済にもプラスに影響するから,市場開放が労働者の能力向上を通じて人的資本形成に資する可能性が肯定された。 この結果を補強するために,途上国全体をカバーするパネルデータに関して,29年度に引き続いて年次更新作業を行い,市場開放と人的資本形成に関する仮設を,対象国と年次を広げて実証し,その結果を紀要等で発表することを予定している。またUniversity of Thai Chamber of Commerce(タイ商工会議所大学)の労働経済学分野の教員と共同で,ASEAN域内外の人口移動を,日タイ比較を含めた分析を予定している。今一つのテーマである,教育と人的資本を導入した2国2階層経済成長モデルに関しては,最適制御問題の数値シミュレーションプログラムを再検討し,多様なパラメータ条件の変化に対応するシステム的な分析を可能とするような改良を行う。 本年度は最終年度に当たるため,研究組織間の連携を密にし,より効率的な研究推進体制を執ることを通じて,成果報告書の取りまとめに繋げる方針である。
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Causes of Carryover |
平成29年度は,研究代表者及び一部分担者の旧所属機関における定年直後に当たるため,代表者にあっては新勤務先への異動,分担者にあっては家族介護の発生に伴う新しい研究体制の構築に時間を要し,結果的に研究計画上の若干の遅れと,それに伴う予算執行の遅れが生じている。 平成30年度は新しい研究体制が整ったこともあり,データ整理等の研究補助に関する謝金や,成果発表のための論文校閲費等が相当程度発生する見込みである。分担者についても,予算の計画的執行に関する配慮を要請している。
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