2018 Fiscal Year Research-status Report
シュンペーター型成長モデルを用いた成長戦略に関する動学的研究
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16K03618
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
池下 研一郎 九州大学, 経済学研究院, 准教授 (80363315)
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Project Period (FY) |
2016-10-21 – 2020-03-31
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Keywords | イノベーション / シュンペーター型成長モデル / 知的財産保護政策 / 生産性 / 自動化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成30年度は,まず4月に,Asia-Pacific Journal of Regional Scienceの特集号,Special Issue on Economic Analysis of Law, Politics, and Regionsに"Campaign contributions and innovation in a fully-endogenous quality-ladder model"が掲載された。この論文では,シュンペーター型成長モデルのフレームワークにおいて,特許保有者から政府への政治献金が,イノベーションを刺激する一方で,特許保有者とそうでない一般家計との社会対立を引き起こし,経済厚生を損ねる可能性を示した。 また5月以降は当初計画通り,シュンペーター型成長モデルを多部門化し,部門間の生産性格差を持続させる要因として,労働市場における摩擦の存在,および金融市場の不完全性を導入することを試みた。特に生産性が低く,賃金の低い産業から,生産性が高く賃金の高い産業に対して労働が瞬時に移動できないような状況では,イノベーションが活発化してもマクロ経済全体における生産性の向上スピードが緩やかになることを明らかにした。この成果については,モデル分析を精緻化し論文執筆を行っている。 最後に本研究課題と関連した研究としては、デジタル技術革新による生産技術の自動化に関する経済分析を行った。研究の結果,分析では生産過程で自動化技術が進んだとしても,マクロでの潜在成長率が低い場合には,労働が機会と比べて相対的に割安になるため,自動化が進みにくくなることを示した。この研究成果についてはで8月の「応用経済学研究会」で報告を行い,その後「デジタル技術革新とインクルーシブ・グロース」として出版された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成30年度は,シュンペーター型成長モデルを他部門に拡張し,労働市場および金融市場の不完全性といった要因を導入したモデル分析を行い,その成果を発表する予定であった。しかし勤務校での業務の多忙化により,論文執筆が遅延し,当初予定していた国際コンファレンスや国内学会での研究成果発表に参加できない事態が生じた。またモデル分析についても,当初は金融取引における情報の非対称性をモデルに導入しようとしたが,問題が発生し,十分な結果が得られていない状況にある。これらの状況を判断して進捗状況としては「やや遅れている」と判断せざるを得ない。
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Strategy for Future Research Activity |
平成31年度については補助事業期間延長が認められたため,研究を継続する。特に多部門化したシュンペーター型成長モデルの分析については,部門間生産性格差を考察する重要なツールとなるので,このモデルを用いて,労働市場の摩擦や金融市場の不完全性がマクロ経済全体の生産性にどのように影響を与えるのかについて分析を続ける。具体的には夏季休暇中に論文の執筆作業を行い,秋以降の国際会議にて報告を行う。また年度末に向けて国外の出版社から,マクロ経済分析,地域経済分析に関する書籍(共著)を出版する計画がある。そこで研究成果をこの書籍の一部として出版できるように,原稿の執筆を進めていく。
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Causes of Carryover |
平成30年度は,労働市場および金融市場の不完全性といった要因を導入したモデル分析を行い,その成果を発表する予定であったが,勤務校のカリキュラム改正に伴う業務の多忙化により,論文執筆が遅延し,当初予定していた国際コンファレンスに参加できない事態が生じた。幸い,補助事業期間延長が認められたことから,翌年度は論文の改定と英語校正,および国際コンファレンスでの報告に補助金を使用する。
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