2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03621
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
佐々木 啓明 京都大学, 経済学研究科, 教授 (70534840)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 経済成長 / 人口減少 / 産業構造変化 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は,人口成長率がマイナスの経済において,産業構造がどのように変化していくのか,および経済成長率がどのように変化していくのかを理論的に分析することである.これまで,産業構造変化と経済成長の関係を分析した研究は数多くあった.また,人口減少が経済成長に与える影響を分析した研究も生まれつつある.しかし,これら2つを統合した研究は,管見の限り,存在しない.現在の日本のように,人口成長率がマイナスとなっている経済を分析するには,これら2つの分野を統合する必要がある.本研究の成果は,日本だけでなく,今後,人口減少を経験する可能性がある経済の分析にも大きく貢献することが可能である. 平成28年度は,本研究の第1段階として,分析の基礎となるモデルを構築し,人口成長率がマイナスではなくプラスの場合を分析した.その成果は,Structural Change and Economic Dynamics誌にアクセプトされた"Population Growth and Trade Patterns in Semi-Endogenous Growth Economies"という論文にまとめられた. 製造業と農業という2部門が存在する2国が貿易を行う状況をモデル化し,両国の人口成長率の大小関係に応じて,長期における貿易パターンと1人当たり所得成長率がどのように決定されるのかを分析した.その結果,両国の人口成長率の差異が,両国の貿易パターンと1人当たり所得成長率の差異を生み出すことを明らかにした.例えば,初期時点において,自国が製造業に,外国が農業に比較優位を持っており,さらに,自国の人口成長率が外国の人口成長率より低い場合は,長期的に,自国は製造業に完全特化し,外国は農業に完全特化する.そして,自国の1人当たり所得成長率は外国の1人当たり所得成長率より高くなる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成28年度の研究計画は,人口成長率が外生的に与えられるモデルを構築し,人口成長率が産業構造変化および経済成長率に与える影響を理論的に分析することであった.本年度は,研究実績の概要に記したように,製造業と農業の2部門が存在する2国が貿易を行う場合,人口成長率,貿易パターン,1人当たり所得成長率,これらの関係を分析した.その際,両国の人口成長率はプラスであると仮定した.本来であれば,少なくとも一方の国の人口成長率がマイナスであると仮定した分析を行うはずであったが,人口成長率がプラスの場合の分析自体が前例がなく,興味深い結果が得られたため,この結果を論文としてまとめた.今後は,人口成長率がマイナスの場合の分析を進めていく.
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Strategy for Future Research Activity |
平成29年度は,人口成長率が外生的に与えられるモデルを構築し,人口成長率が産業構造変化および経済成長率に与える影響を理論的に分析する. このモデルには,農業,製造業,サービス業という3部門が存在する.いずれの部門においても,生産要素として労働と資本が投入される.各部門の技術進歩率は異なるように定式化する.構造変化のモデルでは,とりわけ,製造業の技術進歩率はサービス業の技術進歩率を上回ることが仮定される. つぎに,消費者の効用は,農産品の消費,製造業製品の消費,そしてサービスの消費に依存するように定式化される.ここで,産業構造変化をもたらすために,ノン・ホモセティックな効用関数を用いる.具体的には,農産品の需要の所得弾力性は1より小さく,製造業製品の需要の所得弾力性は1に等しく,サービスの需要の所得弾力性は1より大きくなるように定式化する.一般的な産業構造変化のモデルでは,技術進歩率の部門間格差とノン・ホモセティックな効用関数の相互作用により,産業構造変化が,すなわち,各部門の付加価値シェア,および雇用シェアの通時的な変動が生じる. 本研究では,ここにマイナスの人口成長率を導入する.解析的手法を用い,モデルから生み出される各変数の時間経路,および長期の成長率などを分析する.本年度の研究成果は,学会報告と国際ジャーナルへの投稿・掲載という形で公表する.
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Causes of Carryover |
平成28年度の研究計画では,数値シミュレーション用にノートパソコンと数値計算用ソフトを購入する予定であった.しかし,本年度は解析的分析のみで研究を進めることが可能であったため,数値シミュレーションを行わなかった.したがって,ノートパソコンと計算ソフトを購入しなかったため,次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度の研究計画は,平成28年度よりも複雑な分析を行う予定である.そのため,ノート分析用のパソコンと数値計算用ソフトを購入する.平成28年度に購入予定であったMathematicaというソフトと平成29年度に購入予定であるMatlabというソフトを用い,より厳密な分析を行う.
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