2018 Fiscal Year Annual Research Report
Economics of scarcity, aspiration, and aid dependency
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16K03623
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
高野 久紀 京都大学, 経済学研究科, 准教授 (40450548)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 貧困の罠 / 渇望 / 送金 / 金融 / 教育 |
Outline of Annual Research Achievements |
貧困者は、金銭面での不安が認知処理プロセスへの負荷となり、不合理な意思決定をしがちになるという心理的プロセスによる貧困の罠が近年注目されている。一方で、ハングリー精神という言葉に代表されるように、貧困から生じる渇望が人々の行動の大きなエネルギーとなる場合もある。ベトナムにおけるインタビュー調査では、土地が肥沃で農業所得も高いメコンデルタよりも、土地が貧しく気候も厳しい中部地域の方が、貧しさから脱却しようと努力する学生が多いという認識を人々が共有していた。そこでまず、ベトナムの全国的な家計調査データを用いて子供の教育年数と家計所得の関係を調べてみたところ、所得が多い家計の子供ほど教育年数が高く、貧困が子供に教育への大きな渇望を生じさせているという仮説は支持されなかった。一方、地域ごとの教育の収益率も考慮すると、特に親の教育水準が低い家計で、地域の教育の収益率が子供の教育年数に影響を与えていることが明らかになった。親の教育水準が低い場合には社会的ネットワークにも恵まれていないため、教育が重要な要素となっていることを示唆しており、中部地域でも低教育だと良い職業に就けないために頑張って教育するという認識とも整合的である。さらに、同国での別の価値観調査データと接合して推計したところ、現在に比べて将来を重視する地域ほど子供の教育水準が高いこと、その文化の影響は、母親の教育水準が高くなるほど弱まる傾向があることが分かった。これらは、教育の収益率や文化的要因が、親の教育水準が低い家計において特に重要であることを示している。また、ミャンマーの調査では、貧困層ほど出稼ぎした娘からの送金額が少なく、その要因の40%程度が、貧しい家計ほど娘に条件の良い夫との結婚をアレンジできないことによるものであり、結婚市場の構造を通じて、貧困層は子供の出稼ぎからの恩恵も少ないことが明らかになった。
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