2016 Fiscal Year Research-status Report
社会的厚生関数を用いた経済主体の立地意思決定と持続可能な地域経済に関する分析
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16K03643
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Research Institution | Fukuoka Women's University |
Principal Investigator |
中村 大輔 福岡女子大学, 国際文理学部, 准教授 (70598119)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 空間経済政策 / 地域経済 / 社会厚生 / 持続可能性 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度に実施した研究の成果について、以下のとおりである。平成28年度の研究実施計画のとおり、初年度においては、これまでに確立されている関連研究の精査を行うとともに、最新の分析についてもその動向を検証した。具体的には、中心地理論の拡張、付随する集積経済の概念、及び社会的厚生に関する理論領域である。特に、集積経済については、これまで議論されてきた生産活動への便益だけでなく、生活面から捉えた概念を精緻に検討した。これは、財・サービスの消費に限らず、様々な条件下に直面する生活者の利便性、さらには環境問題をはじめとした外部性が含まれるため、社会的厚生関数との関連づけが必要となる。 社会的厚生関数の概念は、厚生経済学の視点から、限定された枠組みのもとでその拡張が American Economic Review などで継続的になされている。枠組みを限定することは、社会的厚生関数の分析において現時点において不可欠の手法であることから、本研究においては、その枠組みについて、既述のとおり、地域の特性別にみた生活面での効用水準(満足度)に着目している。 こうした一連の考察は、地域経済全体を1つの単位として位置づけた上で、様々な検証を行う必要がある。そのもとでの集積の便益について、ここでは、地域の集積経済(Regional agglomeration economies)という概念を与え、これまでに検討されてきていない集積経済のもう1つの追加的枠組みの形式化を進めており、次年度以降の分析課題へとつなげている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度研究成果として、学会発表2件、単著書籍1件、及び国際査読付き学術雑誌への修正稿審査結果待ち1件がある。 学会発表については、第53回日本地域学会年次大会(平成28年10月 於 新潟)では、報告題目“Location decision-making of economic agents and social welfare for sustainable regional economy”において、自立可能な地域経済を構成するために必要となる諸条件を、企業の利潤最大化行動を用いて明らかにした。ここでは、企業を一地域での基盤産業と非基盤作業に分けて分析し、移出産業として経済的自立を促す基盤産業の役割とともに、域内人口と経済活動を維持させるためには非基盤作業の充足が不可欠である点を示した。 2016年日本応用経済学会秋季大会(平成28年11月 於 東京)では、報告題目“The economies of regional agglomeration”において、家計、企業、行政といった各主体が、その効用や利潤を最大化するためには、地域全体における有機的な基盤づくりが効果的である点を解明した。さらに、規模が小さい地域については、域外との広域的な空間経済政策による補完が求められることを形式的に示した。 単著書籍1件については、本研究の前身である事業においてその大部分の執筆が既に完了しているが、本研究に関連した先端研究である点を含め、最終稿入稿までの期間、現時点での成果を更新し、該当箇所については本研究における成果物であることを明示している。査読付き学術雑誌については、Studies in Regional Science において、修正要請に従った修正稿入稿がなされている。 以上の点から、おおむね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
研究計画書のとおり、今後の研究について、平成29年度には、前年度における既存研究の精査に基づき、社会的厚生関数を媒介とした、生産面と生活面を結ぶ代替的空間経済モデルの構築を比較静学の手法で分析する。当該期間は、本研究全体を通して、特に詳細にわたる分析がなされる箇所であり、研究上の問題として、社会的厚生関数の構造的問題とその扱いが考えられる。本研究では、これらの問題点を補うため、財・サービスへのアクセス性、及び外部経済としての集積経済をはじめとした空間経済の立地諸因子を用いた分析を行う。以上の考察を通じて、どのような経済空間の再編もしくは空間政策の再検討が求められ、そのためにはどういった条件を満たさなければならないのか、学会年次大会における研究報告時等における専門家との意見交換等を活用することで、客観性のある研究を深めていく。さらに、精緻化されたモデルを、地域計量予測分析等へと関係づけていくことで、本研究の成果を、特に一定の制約条件下における経済的・社会的基盤整備への考察に関する地域政策提言により密接に繋げていくことを目標としている。 そして、先進事例とされる欧州をはじめとした地域政策が、我が国の政策にどう反映できるのか、また、初期条件の相違から、どのような点で改良が必要になるのかを明らかにした上で、具体的な既存設備・施設を活かした地域政策、ならびに空間再編政策について検証する。さらに、本研究の成果を環境科学や社会科学全般を含めた学際的研究分野に援用していくことで、現代に至る社会問題解決に地域の実情に応じてどう役立てられるのかを検討していく。
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Research Products
(2 results)