2016 Fiscal Year Research-status Report
ソーシャルキャピタルの形成と減退: 被災地の家計データおよび心理実験を用いた検証
Project/Area Number |
16K03657
|
Research Institution | Seijo University |
Principal Investigator |
庄司 匡宏 成城大学, 経済学部, 准教授 (20555289)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
新井 学 成城大学, 経済学部, 専任講師 (20568860)
|
Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
|
Keywords | 自然災害 / ソーシャルキャピタル / 犯罪 / 社会的孤立 |
Outline of Annual Research Achievements |
今年度は、第1研究プロジェクト「災害がソーシャルキャピタルに及ぼす影響」における二つの研究を進めた。第一に、「なぜ被災地では相互扶助ネットワークの二極化が起こるのか:バングラデシュの事例」に関連する研究として、代表研究者が以前から行ってきた「Religious Fractionalisation and Crimes in Disaster-Affected Communities: Survey Evidence from Bangladesh」の分析をさらに精緻化した。この論文では、バングラデシュのサイクロン被災地で収集した家計データを用いて、①複数宗教が混在するコミュニティほど、大規模災害時に治安が悪化しやすいこと、②治安の悪化は、そのようなコミュニティにおいて被災者救援政策が効果的に機能していないことに起因すること、が明らかになった。他方、同データを用いた「Incentive for Risk Sharing and Trust Formation: Experimental and Survey Evidence from Bangladesh」では相互扶助インセンティブが強い世帯間ほど、被災後に信頼関係が強まることが示された。これらは、被災地におけるソーシャルキャピタルの減退および形成それぞれの現象を理解するうえで重要な知見と言える。 第二に、「なぜ原発避難者の社会的孤立は解消されないのか」に関連する研究として、代表研究者が以前から行ってきた「応急仮設住宅における社会的孤立―福島県の事例―」の分析をさらに精緻化した。この論文では、大規模仮設住宅や駅周辺の仮設住宅において男性の孤立が悪化しやすいことを示した。 なお、これら3本の論文は全て学術雑誌に投稿中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一研究課題である「なぜ被災地では相互扶助ネットワークの二極化が起こるのか:バングラデシュの事例」に関して、前述のとおり今年度の研究を通じて、被災地におけるソーシャルキャピタルの「減退」および「形成」それぞれの現象を理解するうえで重要な知見を得ることができた。これは、本プロジェクトの主要課題である、ソーシャルキャピタルの形成と減退を同時に説明する理論を構築するうえで不可欠なプロセスである。
また、第二研究課題である「なぜ原発避難者の社会的孤立は解消されないのか」に関しても、本年度の研究を通じて被災者の社会的孤立を悪化させるハード面の政策が明らかになった。これは、次年度に実施予定である、孤立回避に向けたソフト面での取り組みの評価においても重要な知見であろう。
|
Strategy for Future Research Activity |
第一に、次年度はこれまでの研究成果を踏まえて、被災地におけるソーシャルキャピタルの形成と減退を同時に説明する研究を開始する。これまでの研究により、被災時におけるソーシャルキャピタルが政府のガバナンスや個人間での相互扶助インセンティブといった要因によって変化することが明らかになった。また既存研究において、相互扶助や犯罪のような社会規範に基づく行動は、近隣効果(peer effect)が発生しやすいことも知られている。そこでこれらの議論を踏まえ、被災時におけるソーシャルキャピタルの地域差が複数均衡によって説明され、どの均衡が選ばれるかは各地域の政策的的ショックや初期ソーシャルキャピタルによって決定される可能性を検証する。
第二に、次年度はこれまでの研究成果を踏まえ、福島県いわき市の仮設住宅に避難した原発避難者のデータを用いて、孤立回避に向けたソフト面での取り組みの評価を行う。仮設住宅ではNPOや社会福祉協議会の支援を受けて、避難者同士の交流会が頻繁に行われている。この交流会実施の効果を分析する。
|
Causes of Carryover |
当初予定していた実験の実施を次年度以降に見送ったため。これに伴い、設備備品費も今年度は小額となった。 また、今年度参加した国内学会が主に東京近辺で開催されたため、宿泊費や交通費が不要となった。国内出張の場合も招待講演であったため宿泊費や交通費が不要となった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降に実験の実施を予定している。また実験の調査対象者数を調整することで使用額の調整は可能である。
|
Research Products
(13 results)