2017 Fiscal Year Research-status Report
商社等の貿易仲介企業の市場構造・費用構造及び国際貿易に果たす役割に関する理論研究
Project/Area Number |
16K03666
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
松原 聖 日本大学, 商学部, 教授 (40336699)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 貿易仲介企業 / 間接輸出 / 範囲の経済 / 費用構造 / 市場構造と規模 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に示した通り、貿易仲介企業の費用構造に関する分析を寡占モデルを用いて試みた。貿易仲介企業の費用として考慮すべきであるのが、「貿易仲介を利用する企業が増えるほど、貿易仲介企業の費用が指数的に増えていく」という点である。このような定式化を行ったAkerman(2012)(独占的競争モデルの輸出財市場を仮定)は、貿易仲介企業にとっての範囲の経済の限界からそれを正当化している。 Akerman(2012)を参考にして貿易仲介企業の費用関数を、仲介サービスを受ける企業数の2次関数として定式化し、輸出企業それぞれが海外で製品を独占的に販売する場合を想定し、輸出企業数が2という最も簡単な場合についてモデルを解くことを試みた。輸出企業の最適行動についての解についてこれまでの分析に誤りがあった(輸出企業の一方が貿易仲介を利用してた方が利用しないケースは部分ゲームの解として存在しない)ため、それを修正すると同時に、貿易仲介企業の最適行動並びに均衡を分析した。 その結果、モデルの解、すなわち均衡における貿易仲介手数料と輸出形態が以下の変数の関数になることを示した:(1)外国市場の(相対的な)大きさ、(2)輸出企業が独自に輸出を行う場合(直接輸出)にかかる固定費用、(2)貿易仲介費用、すなわち範囲の経済を規定するパラメータ。変数(1)は先行研究での生産性パラメータに該当するものである。輸出企業数が2の場合は、仮定された貿易仲介の費用関数では2企業両方が貿易仲介を利用する輸出(間接輸出)のみが均衡となるため、次年度はより一般的なn輸出企業での条件を導出し、実証分析につながる仮説を提示したい。 実証分析では、今年度購入した東洋経済海外進出企業データベースを用いる予定である。できれば実証分析を合わせた形で論文を完成させ、学会・研究会での発表や専門誌への投稿につなげたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では以下の2つの輸出市場構造を別々に考察することを考えていた。(1) 各輸出財について輸出企業1 社のみが競争相手のいない外国に進出する:この場合、各輸出企業は進出した国で独占企業であり、自国企業も含めた他企業との競争が無いため、輸出企業の選択に関する分析はかなり単純なものとなる。研究実績にあるように(結果の変数(1))外国市場間の相対的な比較は市場の相対的な大きさの比較のみで十分であり、輸出企業の生産費用を直接考察する必要はない。ただし輸出企業が直接輸出を選んだ場合にかかる固定費用は依然重要な変数である。 (2) すべての輸出企業が同じ外国に進出する:この場合、外国企業がすでに市場にいるかどうか及び外国企業・輸出企業間の生産性格差に加え、輸出企業同士の競争が意思決定をより複雑にする。 当初は(2)を主に分析していたが、仲介企業の利潤が外国市場の規模だけでなく輸出企業および仲介企業の費用パラメータなど多数の変数に依存するため、貿易仲介企業が各企業に仲介サービスを提供するかどうかの意思決定が、最も単純なモデルでも非常に複雑になる。そこでまずは貿易仲介企業の最適な行動及び市場均衡を導くため(1)を想定したところ、貿易仲介企業や輸出企業の費用構造などの仮定を変えたことと合わせてうまく行った。特に貿易仲介企業の費用構造をAkerman(2012)のそれをそのまま利用するのではなく、R&D投資の理論研究で多く用いられる2次関数を導入したことで、計算が大幅に簡略化された。 ただしより一般的なn輸出企業における分析や、理論分析に基づく実証分析はこれからであり、論文にまとめることと合わせ、平成30年度は研究のスピードアップを図りたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後はモデルの分析を検定可能な結果が出る所まで進めること、すなわち均衡で直接輸出を行う企業が存在する条件を求めるため、少なくとも輸出企業数がnの場合に拡張することが最も重要である。そして研究計画で触れてはいるが当初あまり行う予定でなかった「実証分析への応用の可能性」を探っていきたい。具体的には東洋経済「海外進出企業データベース」を用いて、海外進出企業の投資目的(国際的な生産・流通ネットワークの構築など)が企業属性や出資状況などとどのように関連しているのかを企業データを観察することで調べ、実証分析並びにモデルの一般化に役立てたい。 データベースに輸出企業の貿易仲介企業利用の有無などモデルの結果を直接検定できるような情報は無いため、あくまでも参考程度ではあるが、モデルからいろいろな結果を導くことで検定可能な仮説は何か、そのためにどのようなデータが必要となるかをより詳しく調べていきたい。例えば海外進出企業の出資状況を見ると、商社の出資が多くみられる。日本の製造業が海外進出当初は(総合)商社の国際的なネットワークを利用してきたことはよく知られたことであるが、それが2010年代に入ってからもどれくらい行われているのかを、出資比率という間接的な形ではあるが見ることができると考える。現在、データは2010年及び2015年について利用可能である。 そしてデータの利用とは別にモデルの発展という意味で、輸出企業及び貿易仲介企業が存在する国の厚生分析を進めていきたい。厚生分析の結果から、総合商社のような大規模な貿易仲介企業がなぜ日本と韓国にしかないのかを議論するための政策的な含意が示せれば望ましいが、まずはモデルにおける厚生分析の枠組みを確定させたい。
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