2016 Fiscal Year Research-status Report
企業の投資戦略と海外進出パターンの適合性の実証研究
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16K03668
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Research Institution | Hosei University |
Principal Investigator |
田村 晶子 法政大学, 経済学部, 教授 (30287841)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際競争力 / 直接投資 / アウトソーシング / 研究開発投資 / 投資戦略 / 本社機能サービス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、どのような企業の海外進出が企業の収益を高め、国の国際競争力に寄与するかを探求することである。海外進出のパターンとして、直接投資、アウトソーシング、貿易・サービス貿易(技術貿易等)がある。本研究では、企業の投資戦略タイプと企業の海外進出パターンの適合性に着目する。 今年度は、まず、理論的な枠組みとして、Antras and Helpman[2004]のモデルを応用し、マネジメントや研究開発等を含む本社機能の生産におけるシェアの違いが、輸出(国内生産)、直接投資、アウトソーシング(部品輸入)の選択に与える影響について明らかにした。さらに、日本の製造業企業へのアンケート調査により、マイルズ・スノー戦略タイプによる投資マネジメントや投資プロセスの違いを明らかにしたうえで、各戦略タイプの本社機能サービスの生産シェアについて考察を行った。分析の結果として、研究開発を重視する探索型企業は本社機能サービスのシェアが大きく、他方、生産コスト削減による業務維持の投資を重視する防衛型企業は本社機能サービスのシェアが小さい、と結論付けた。この結論は、直接投資に、探索型企業がより積極的であり、防衛型企業がより消極的であるという、清水・安藤[2011]のアンケート結果と整合的である。 今年度は、本研究と連携している法政大学比較経済研究所プロジェクトの成果を、田村晶子編『国際競争力を高める企業の直接投資戦略と貿易』日本評論社、2017年3月、にまとめた。プロジェクトは、国際貿易のみならず、契約理論、管理会計、ファイナンス、国際金融、マクロ経済学といった、異なる研究分野の研究者が連携し、国際競争力と企業の直接投資戦略について議論を深め、大きな成果をまとめることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度は、連携する法政大学比較経済研究所プロジェクトの成果を本にまとめ、本研究の理論的な枠組みをまとめることができた。プロジェクトでは、不完備契約理論に基づくイノベーションマネージメント、管理会計の視点から開発設計段階のコストマネジメント、為替変動の不確実性と研究開発投資など、異なる研究分野の研究者の視点から、企業の競争力に直結する研究開発にかかわる分析を深めている。これらの分析から、不完備契約理論を応用して、企業の投資戦略の違いによる本社機能サービスシェアの違いが、企業の直接投資、アウトソーシングの選択に与える影響の理論的な枠組みを整えることができたことは、当初の計画を上回る成果と言って良い。 一方、実証分析を行う上でのデータの収集や整備には、時間をほとんど割くことができなかった。したがって、来年度は、実証分析を進めるうえでのデータの収集と整備を精力的に行う必要がある。しかし、実証分析に有効なデータを収集するためには、その前提となる理論的な枠組みの構築が不可欠であり、理論的枠組みの構築を優先させたことは、今後の研究の進捗にはプラスに働くものと考えている。 また、今年度は、法政大学大学院経済学研究科長の役職にあり、学期内の海外出張は困難な状況であったため、夏休みと冬休みには資料収集と研究打ち合わせのための出張を行ったものの、国際学会での報告がまったくできなかった。今後は、国際学会での報告の機会を作り、積極的に研究成果の国際的な発信と意見交換に努めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、今年度にほとんどできなかった企業データの収集や整備して、基本的な実証分析を行い、さらに、国際学会での報告や海外の共同研究者との研究打ち合わせを積極的に行いたい。 特に、これまでのアンケート調査、及び、理論分析の蓄積から、財務データを用いて、戦略タイプを分類、また、その戦略傾向の指数を構築する。また、日経の企業戦略情報データベースと、この分析により得られた企業戦略タイプの整合性も確認する。従来のアンケート調査は、対象が東証一部上場の製造業企業に限られていたが、公表された財務データからの分析では、非製造業(サービス業)企業も対象とできる。 東洋経済新報社「海外進出企業データ(テキスト版)」、経済産業省「海外事業活動基本調査」等を用いて、上記の作業で戦略タイプを特定できた企業について、海外進出のパターンを調べる。企業の海外進出の状況やその目的を調べるとともに、海外子会社の日本からの原材料輸入や日本への輸出の動向、さらに、海外子会社の利益等を調べる。 上記の基本的な実証結果を、法政大学比較経済研究所プロジェクトメンバーに報告して議論を行うとともに、日本国際経済学会や日本経済学会に出席し、広く他の研究者との意見交換を行いたい。国際学会報告は、2017年9月にConference on Performance Measurement and Management Controlでの報告が確定しているが、Asia Pacific Economic Association(APEA)、さらに、American Economic Associationでの報告を目指したい。また、応募者のPh.D.論文の指導教員であったJonathan Eaton 教授やSamuel Kortum 教授のもとで研究の成果を報告してご意見をいただく予定である。
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Causes of Carryover |
今年度は、分析の理論モデルの構築と、連携する法政大学比較経済研究所プロジェクトの成果を本にまとめることを重視したため、実証データの収集と整備に時間がさけなかった。したがって、データ収集と整備に利用する予定だった金額が次年度使用額となった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度は、今年度に構築した理論分析に基づく、実証分析用のデータ収集と整備を行う。そこで、当初の予定通りに、データ収集とその整備に資金を使う予定である。
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