2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03693
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
板谷 淳一 北海道大学, 経済学研究科, 教授 (20168305)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ソーシャル・キャピタル / 微分ゲーム / 消費の外部性 / マルコフ戦略 / マルコフ完全均衡 / 貧困の罠 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度はソーシャル・キャピタルの形成に関する基本となる理論モデルを構築した。本研究では、有限人数の経済主体間の社会的活動の戦略的相互依存関係の結果生まれるソーシャル・キャピタルの形成を微分ゲームを用いて定式化した。その結果、ソーシャル・キャピタルの形成の最適経路がある条件下で一意的に存在することを証明した。その最適経路は次のような興味深い性質を持つことがわかった。長期均衡が3つ存在して、1つはソーシャル・キャピタルの形成が飽和状態になる長期均衡、不安定な長期均衡およびソーシャル・キャピタルの形成が全く起きない長期均衡である。さらに特筆すべき点としては、初期のソーシャル・キャピタルの水準が不安定な長期均衡に対応するソーシャル・キャピタル水準より低い場合、ソーシャル・キャピタルの形成は自発的あるいは自然発生的には起こらず、ソーシャル・キャピタルの形成における『貧困の罠』が存在することが判明した。これは、犯罪、内戦やサボタージュが多発しているようは貧しい発展途上国や犯罪が多発していたり、隣人関係が極端に希薄な大都市は、ソーシャル・キャピタル形成の低い状況と考えられる。我々の理論的成果は、このような地域では自発的あるいは自然発生的にはソーシャル・キャピタルの形成は起こらず、ソーシャル・キャピタルが貧困な状況から抜け出ることは不可能であることを示唆している。これらの理論的な事実から、たとえ、個人の合理的な選択の結果として生まれたとしても、政府やNGO機関、民間NPO機関は個人の過度の私的消費を抑制するようは税制の導入やキャンペーンの展開して、人々の社会的結びつきや社会的連帯を促進計ったり、ソーシャル・キャピタルの形成のためのbig pushを行うことが社会全体の厚生を高められるという政策的インプリケーションを導出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
理論的な研究の成果は当初の研究予定以上に進捗して、すでに理論的な成果を論文にまとめる段階に入っている。今年度中にまとめて、査読付き国際ジャーナルに投稿する予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成28年度で構築を完了した動学モデルをベースに、平成29年度以降はいくつかの発展的研究を順次行う予定である。(1)資本ストックを取り入れて経済成長モデルに拡張 (2)ソーシャル・キャピタルの蓄積を積極的に推進するような税制度や補助金政策をどのようなもであるか。(3)NGOやNPO(非営利団体)に対する税制や様々な優遇措置のあり方、寄付金税制のあり方がソーシャル・キャピタルの蓄積にどのような影響を与えるか。という3つの研究テーマに取り組み予定である。さらに、それぞれを発展テーマに沿った論文を最終的にまとめて、できれば複数の論文にまとめて査読付き国際専門雑誌Journal of Economic Dynamics & Control あるいはMacroeconomic Dynamics等に投稿すると同時に、日本経済学会および国際財政学会(IIPF)あるいは国際公共経済理論学会(PET)で発表を行う予定である。また、研究の発展途上において、研究協力者でであるChris Tsoukis教授とは今後ともインターネットを通じての議論に加えて、彼がいる英国のキール大学を複数回研究訪問する予定である。
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