2016 Fiscal Year Research-status Report
社会保障制度改革:政策の不確実性による経済、財政、厚生費用の計量分析
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16K03705
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Research Institution | Keio University |
Principal Investigator |
北尾 早霧 慶應義塾大学, 経済学部(三田), 教授 (50769958)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 政策の不確実性 / 高齢化 / 社会保障制度改革 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究の第一ステップとして、比較対象の基盤となる不確実性を伴わないスタンダードなモデルを構築した。Kitao(2015、Journal of Economic Dynamics and Control)などの先行論文と同様、異質な個人(heterogeneous agents)を組み込んだ世代重複型の動学的一般均衡モデルを基礎としたモデルを分析した。個人によって異なる資産、労働市場における生産性、キャリアを通じた平均賃金などの異質性を取り入れることは、政策の変更による影響を分析し、厚生効果を推し量る上でも重要となる。
第二にダイナミック・プログラミングの応用により上記のスタンダードなモデルを発展させ、政策の不確実性を導入する作業を行った。第一に政策変更のタイミングが複数考えられるシナリオを分析した。その上で最終的な政策そのものの不確実性を考慮に入れた分析を行った。複数の移行経路を同時に計算する必要が生じるため効率的な計算方法を開発する必要があり、Fortranのプログラミング言語を使ったより計算方法を検討し実践した。 第三に特定の年金改革に関する不確実性を実際にモデルに組み込み計量分析を行った。成果を第一のワーキングペーパーにまとめた。日本経済学会年次大会をはじめ、大学におけるセミナーなどにおいて発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
計画通りに進展している。本年度の計画の柱は政策の不確実性を伴わない世代重複型動学一般均衡モデルを構築し、日本経済のミクロ、マクロデータに合致すべくモデルをカリブレートすることであった。計画通りにモデル構築とカリブレーションを終え、ワーキングペーパーを書き上げジャーナルに投稿済みである。
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Strategy for Future Research Activity |
来年度以降は、初年度の研究成果を背景に書き上げた1本目のワーキングペーパーを様々な機会において発表して研究を練り直しつつ論文の質を高めていく。それと同時に、研究の内容を分かりやすく政策現場や社会に伝達して理解を得ることにも力を入れていきたい。またワーキングペーパーの出版や、セミナー・カンファレンスなどにおける発表の場で得たフィードバックを元に、最初の論文を発展、応用させた研究の可能性を探り、関連分野における新たな学術論文を執筆することを目指したい。
2年目以降は規範的分析についても理解を深めたい。ミクロベースのモデルを構築することにより、各政策が世代、資産、労働生産性などの異なるそれぞれの個人にどのような影響を及ぼすかを計量分析することができる。年金支給額の減少や医療保険の負担率増加は現在の高齢者および一部現役世代にマイナスの厚生効果を及ぼすと想定される。一方で改革を先送りすることは、少子高齢化により既に重い負担を負う若者や将来世代の費用を一層増加させる。「将来的に最適な政策を選びつつ現役世代の負担を緩和させるような方法は何か」、「改革のタイミングを遅らせることは誰にとって最大のコストを生み出すか」、といった重要な質問への回答を明瞭に提示できるような分析に取り組みたい。
本研究においては日本の高齢化と財政、社会保障問題を取り扱っているが、高齢化の進行と社会保障制度改革に伴う不確実性は日本だけの問題ではない。同様の問題をかかえる欧米を中心とした外国人研究者との意見交換を行うことは本研究にとっても諸外国の研究にとっても役に立つことであると考える。ワーキングペーパーの完成以降、関連する分野で活躍する海外の研究者を招聘し、論文についての意見交換を行うと同時に今後の発展的な研究(単独、あるいは共同研究)を模索する機会としたい。
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Causes of Carryover |
作業効率化により人件費(謝金)で必要な額が予定よりも少なかったため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度以降の人件費もしくは書籍費などに充当する。
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