2017 Fiscal Year Research-status Report
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16K03720
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
飯田 善郎 京都産業大学, 経済学部, 教授 (50273727)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 所得格差 / 所得再分配 / 経済実験 / ディクテーターゲーム / 自尊感情 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究計画に則り、再分配選好に対する自尊感情の影響の検証としてアンケート調査および経済実験によるデータの蓄積を進めた。その結果、一応の分析に足るデータの蓄積を得ることができたと考えられる。詳細な分析は最終年度に集中して行う予定であるが、これまでの予備的な検証からは、本研究の前提である、自分の将来の立場に楽観的な(自分がディクテーターゲームにおける配分者になれると予想する)被験者はそうでない被験者に比べてディクテーターゲームの配分者になったときに有意に低い再分配の選好を示すという結果は明確に表れており、その傾向は初期の所得分配が本人の能力(知能テスト)によるか、運(くじ)によるかに関係なく同程度にみられる。その上で本研究の主たる研究目的のひとつである、被験者の特性自尊感情(ローゼンバーグ自尊感情尺度による)と自分の立場の予想との相関、および特性自尊感情とディクテーターとしての再分配選好との相関に注目するといずれも有意な相関を観察できている。ただし、自分がディクテーターになれたかどうかを認識した後での状態自尊感情との再分配選好との相関は明確でなく、またディクテーターになったか否かによる自尊感情の変化については、単純な説明が難しい結果となっている。これらについてのより詳細な分析と解釈が必要となる。また、分析の幅を広げるために被験者には公共財ゲームにも参加させている。結果を見るとこちらでも特性自尊感情と他のグループメンバーと比して利己的に行動している傾向に相関がみられるが、状態自尊感情との相関は明確ではない。こうした異なる実験から導かれる結果の一貫性を手掛かりにしつつ、さらなる検証を進める必要があると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
概要にも示した通り、29年度はおおむね順調にデータの蓄積を進めることができている。ただしディクテーターゲーム実験の一部でサーバーのトラブルに伴う実験進行上の支障が起きたため、トラブルのあった当該データは除外せざるを得なかった。また公共財実験を含む調査を行ったため、被験者の拘束時間が延び、謝金額をその分高くしたことで計画よりもやや謝金額が膨らむという事態が生じた。それでも計画に記した約100名分のデータの蓄積を今年度行うことができ、またトラブルが生じた実験も、公共財実験に関してはデータが残っているため、自尊感情との相関の検証には充てることはできる。計画では今年度から状態自尊感情については完全にネットによるアンケート調査に切り替える計画であったが、これについては28年度から順次進めていたため、今年度に関してはすでに実験室でのアンケート調査に参加していた被験者を除きネットによるものとなった。実験室でのアンケートとネットのアンケートに関しては両者の間に平均値、分布とも有意差は見いだせず、調査方法によるぶれの問題はないと考えられる。集まったデータからは計画した研究目的の一部には統計的に有意な結果を得ているが、すべての目的を果たしているとはまだ言えない。特に実験前で自分がディクテーターになれるとわかる前の特性自尊感情と実験直後で自分が実際にディクテーターとしてふるまった後の状態自尊感情は全体で見たとき有意な差は見られず、また役割を決定する知能テストやくじの結果、相手よりも高い成果となったか否が影響しているといえる有意な結果も得られていない。その一方で再分配選好に関しては特性自尊感情のとの相関は状態自尊感情との相関と比しても明らかに大きい。これに一貫した説明がつけられるかについては詳細な検証が必要となるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
分析と学術誌への投稿を進めつつ必要に応じて適宜データの蓄積をかさねてゆく。分析に関しては、特に研究目的としていた特性自尊感情とディクテーターゲームにおける立場の予想、再分配の選好に関しては有意な結果を得ているが、立場が明確になった後の自尊感情である状態自尊感情との相関は弱い。状態自尊感情が特性自尊感情から変化したためと考えられるが、どのような要因によってどのように変化した結果として相関が弱まるのかについては、全体の傾向を分析しても平均値や分散に有意な差が読み取れないため、個々のデータを確認しながら傾向を見出す必要がある。またトータルで自尊感情が再分配選好に影響する程度やメカニズムについては、ほかに再分配選好に影響すると考えられる要因を丁寧に切り分けながら明確にしてゆく必要がある。これまでの予備的検証においては、他の先行研究で指摘されるような、初期所得分配の決定要因や性別は本研究でのデータからは有意に影響する傾向は見いだせていない。そのほかに影響しうる要因として被験者の経済実験への参加履歴があり得る。京都産業大学では同じ実験に同一の被験者が複数回参加することはありえないように管理されているが、同一の実験でなくとも、過去に被験者が実験室を訪れ、実験に参加した経験の有無、またそうした経験の蓄積が被験者としての緊張の程度や結果の見通しに影響を与え、最終的な本実験における再分配選好にも影響している可能性がある。これについては、被験者の過去の参加履歴を確認し、指標化することでコントロールしてゆく。本研究の成果の一部については、すでに学術誌に投稿している論文も、ディスカッションペーパーとして叩き台に上げている論文もあるが、これらは周辺的な研究・検証の結果に関するものである。自尊感情に直接関係する要因についての検証をメインとしたものについては今後分析をまとめ、投稿・発表を目指してゆく。
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Research Products
(2 results)