2016 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
16K03721
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Research Institution | Kyoto Sangyo University |
Principal Investigator |
八塩 裕之 京都産業大学, 経済学部, 教授 (30460661)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 中小企業オーナー / インカム・シフティング / 税制改革 / 制度比較 |
Outline of Annual Research Achievements |
財務省財務総合政策研究所が発行する学術誌『フィナンシャルレビュー』に論文を公表した。
「中小企業課税の新展開 資本と労働間の所得移転にどう対応すべきか」『フィナンシャル・レビュー』 2016(2), 96-122(田近栄治成城大学特任教授との共著)
本課題研究がテーマとする中小企業のインカム・シフティングについては、欧米諸国ですでに様々な実態が報告されている。この論文では日本の問題を分析する事前研究として、こうした欧米の状況をサーベイした。論文で取り上げたのはアメリカ、イギリス、ノルウェーである。いずれの国でも高齢化による社会保険料引上げ等を通じた労働所得への課税強化と、グローバル化に対応するための法人税や配当所得などの税率引下げによる資本所得への負担軽減が行われた。その結果、中小企業オーナーによる労働所得から資本所得への大規模なインカム・シフティングが引き起こされた。論文ではそうした欧米の状況をサーベイしたうえで、日本の問題について検討した。日本でも欧米諸国と同様に近年、高齢化とグローバル化に対応する形で、保険料の引上げと法人税率の引下げがなされている。その結果、欧米諸国でも起きた「労働所得から資本所得へのインカム・シフティング」が起きる可能性がある。論文ではまず、そうした近年の日本の制度実態と改革の動向を説明した。そのうえで今後に想定される制度改正のあり方や現在、日本が抱える問題点について検討した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究は「個票を用いた日本の中小企業税制分析」と題し、日本の中小企業課税の実態を個票データを用いて分析する。当初の計画では一年目に海外の状況などをサーベイするとともに、個票データの手配を行うことを予定していた。 一年目の研究成果は、上記で述べたように海外の状況に関するサーベイ論文を公表できたことである。実際、サーベイをしてみると、海外では様々な問題が生じていることがわかり、日本の分析にも極めて有用と思われる事例を見つけることができた。また、日本の制度が抱える問題点や改革の方向についても検討することができた。 一方、個票データについてはすでに仮申請に着手し、今年度の早い時期に入手できる見通しである。データを入手次第、すみやかに日本の中小企業課税について分析に入る予定である。
以上のように、研究は大体当初の予定通りに進んでいるといえる。そこで「研究はおおむね順調に進展している」と評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
研究一年目では上記で述べたような研究成果をあげることができた。欧米の事例のサーベイに続き、今後の課題は個票データを入手して日本の実態分析に取り組むことである。
これまで日本では長く「赤字法人問題」などといわれ、中小企業オーナーが高い法人税負担を避ける目的で、所得を全部自分の給与でとってしまう節税をする結果、多くの法人が故意に赤字決算をしているのではないか、などといわれてきた。しかし上記でも述べたように、近年の制度改革で状況は大きく変わりつつある。すなわち法人税の税率は大きく下げられた一方で、むしろオーナーが受け取る給与に対しては高い社会保険料がかかるようになり、法人を黒字決算にして給与をできるだけ受け取らないようにしたほうが、(少なくとも制度的には)大きく節税できるような状況となった。こうした近年の変化を踏まえつつ、「赤字法人」の実態などを中小企業の個票データを用いて分析することが、今後の研究テーマである。
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