2016 Fiscal Year Research-status Report
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16K03734
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
武田 史子 東京大学, 大学院工学系研究科(工学部), 准教授 (70347285)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | M&A / 株価反応 / 研究開発 / 特許価値 / 企業系列 |
Outline of Annual Research Achievements |
国内企業同士のM&Aと研究開発との関係について、3つの側面から分析を行った。第一に、研究開発が盛んな産業である電子電機産業について、M&Aと研究開発との関係を分析した(研究室の三田村健担当)。第二に、同様の産業分析を、自動車産業を対象として行った(同清本和暉)。第三に、合併と研究開発との関係を、6大企業集団に所属する企業とそうでない企業間で比較した(同兼子健太郎)。 M&Aに関するデータは、Thomson SDM Platinumより、1985~2014年の期間で取得した。研究開発関連指標としては、研究開発費に加え、特許価値を表すYK値(工藤一郎国際特許事務所より提供)を用いた。分析手法は、以下の3つの方法を用いた。第一に、M&Aの前後における、研究開発関連指標に変化があるかどうかを、統計的に検定した。第二に、M&Aが公表された日前後の株価反応を、Market-adjusted returnで測定した。第三に、Market-adjusted returnを、M&A形態や、企業特性を表す変数を用いて、重回帰分析を行い、株価反応に影響を与える要因を検証した。 分析の結果、以下の点が示された。第一に、電子電機産業では、買収企業のYK値が減少すること、また買収企業の研究開発費は株価反応と負の相関関係を持つことが示された。第二に、自動車産業では、M&Aによって買収企業に関しては技術力の向上が見られるものの顕著なものではなく、また被買収企業に関しては、M&Aによる影響が見られないという結果を得た。また、研究開発集約度は、株価反応に対して有意に負の相関があった。第三に、買収企業の株価反応については、独立企業同士の合併が最も大きく、同一の系列企業同士の合併が最も低かった。技術力に関しては、研究開発効率性、インプット、アウトプットのすべてが株価反応に対して、マイナスの相関がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の研究計画では、国内合併と研究開発に絞って分析を行い、翌年度以降に、企業系列との関係について分析を行う予定だった。これに対し、28年度は、分析対象として、2つの産業を絞ったものの、合併以外のM&A形態と研究開発との関係についての分析を行った。また、企業系列との関係についても、分析を行った。このため、研究の進捗はおおむね順調であるといえる。中でも、産業別分析については、業績の比較的好調な自動車産業と、そうではない電子電機産業とを比較すると、M&Aと研究開発との関係に相違がある傾向があることが見られた。このため、今年度以降は、さらに、産業ごとの相違がどのような要因で生じているのか、より詳細に分析をすることを考えている。 一方で、研究上の課題もいくつか明らかになってきた。例えば、YK値は、特許に対して第三者が行ったアクションに基づいて点数化された指標である。このため、特許の取得からアクションが生じるまでタイムラグがあることが予想される。今回の分析では、M&Aとほかの企業特性を表す過去の研究同様、M&A前後3年間における指標の変化を、統計的に分析した。しかし、この方法では、タイムラグの大きい指標の変化を適切に捉えられていない可能性もある。そうした批判を踏まえ、今後の研究については、YK値に加えて、特許の前方引用数など、ほかの変数の分析も行うことを考えている。 そのほか、企業集団との関係についての分析は、企業集団の定義と実際の企業の分類を決めるまでに時間を要した。また、今回この分析では合併のみを対象としたこともあり、サンプル数が十分ではなく、強い結果を得るのが難しかった。さらに、アウトプットについての課題がある。今年度以降は、昨年度からの蓄積をまとめ、国際学会での発表や、査読付き英文ジャーナルへの投稿に向けての準備も進めたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画では、これまでの研究を通じて浮かび上がってきた課題を踏まえて、修正を加えたいと考えている。まず、研究開発の指標としては、YK値以外に、特許の前方引用数を採り入れることを検討する。次に、M&A前後の期間として、3年以上の長期の分析も試みる。さらに、業種別分析の範囲を広げ、対象業種を増やし比較検討することを通じて、産業ごとに、M&Aと研究開発との関係がどのように異なるのかを分析したい。一方、M&Aを実施する際に、争点となりやすい、被買収企業の雇用についても、変数を加え、雇用の維持が、研究開発の進展に対し、相関関係があるかどうかも、同時に検証したいと考えている。また、企業系列との関係については、定義や分類上の問題が多く、分析に入れることに困難が伴うため、今年度の研究では対象に採り入れない方向を検討している。 さらに人的リソースに余裕があれば、近年話題となっている、会計基準の変更による影響があるのかどうかも、検証したいと考えている。具体的には、国際財務報告基準(IFRS)適用を公表した企業について、M&Aや研究開発費に関する会計処理を変更しているかどうかを確認し、分析に取り入れることを検討している。具体的には、IFRSでは、M&Aに関わるのれんを償却しなくてよいことや、研究開発に関しては開発費を無形資産に計上できることが、日本企業のメリットになるという指摘がある。このため、実際にIFRS適用を公表した企業が、こうした変更が行い、M&Aと研究開発の関係に影響を与えているのかどうかを確認したいと考えている。 また、今年度以降は、研究のアウトプットにも力を入れたいと考えている。これ以降は分析結果をまとめて、国際学会での発表や、査読付き英文ジャーナルへの投稿に向けての準備を進める予定である。
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Research Products
(5 results)