2016 Fiscal Year Research-status Report
対外資産・負債の動向:構造的要因と世界経済への影響
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16K03735
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
植田 健一 東京大学, 大学院経済学研究科(経済学部), 准教授 (40750807)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | Global Imbalance / Industrial Revolution / External Wealth |
Outline of Annual Research Achievements |
2008年の金融危機の序章となった2000年代の欧米の資産価格上昇の一因に世界的な資金余剰、とりわけ日本、中国をはじめとする東アジア諸国の必要以上の欧米の債務への投資が挙げられることが多々ある。2017年初頭においても、東アジア諸国の貿易黒字を原資とした欧米への国際投資が、欧米の政治家から非難されている。さらに、一部の経済学者からも批判があり、例えば、理論的には国の景気循環の影響を緩和する観点からは、東アジア諸国の対外資産は必要以上に多いことが明らかになっている。 本研究ではこれまで、歴史的なデータを様々なソースから集め、19世紀中旬以来、歴史的には、工業化が急速に進んでいる国が同時に多くの対外資産を貯めてきたことを示した。すなわち、東アジア諸国の前の1980年ごろまではアメリカであり、その前の第一次世界大戦前はフランスやドイツ、そしてその前の19世紀後半までは、世界で一番早く産業革命を経験したイギリスが、その時々、巨大な対外資産を貯めてきたのである。このような長期的視野に立った対外資産のパタンを初めて示した。 そのような対外資産の歴史的パタンを示す理論はまだないため、本研究の主目標はそれを構築することだが、その基本的な骨格は完成した。具体的には、ルーカス(2004)に従い、各国が順に産業革命を経験する経済成長モデルをもとにするが、その閉鎖経済の仮定は取らず 開放経済で考察する。その上で、二つの市場の不完全性を仮定する。一つは産業革命が起きることそれ自体を賭けの対象とするような証券市場はないとの仮定であり、もう一つは、各国の消費は国際通貨(歴史的には金)がなければできないものとの仮定である。これらの仮定のもとで、産業革命を経験した国が、その成長が早い時に対外資産を貯めていき、その状況がシーケンスとして起こることを、理論的に示した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究計画では、理論の構築、実証研究、政策的含意と三本の柱を立てているが、どれも初年度の目標通りの進捗状況である。 理論に関しては、基本的な骨格が完成しており、今後は、理論の前提となる様々な仮定を異なるものにした場合にどのような理論的帰結が導かれるかを明らかにし、そのことによって、理論の頑健性を試すこととなる。また、ある程度異なる仮定のもとでも、対外資産の歴史的パタンと整合的な理論を構築できるか、さらに追求する。 実証に関しては、様々な文献等から対外資産の歴史的パタンを明らかにしたことで、重要な一里塚は越えた。しかしながら、 定性的な(理論的な)データのパタンとの整合性だけでなく、理論モデルをシミュレーションすることにより定量的な(実証的な)データのパタンとの整合性を追求する必要がある。 データに見られる歴史的な対外資産のパタンとそれと整合的な基本的な理論モデルをまとめたものは、平成29年度の早い段階で本研究の初期段階のワーキングペーパーとして発表できる水準までできている。 政策的含意については、定性的(理論的)にも、定量的(実証的)にも、分析の最終結果に基づいて、研究することになる。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の計画通りの遂行を考えている。 平成29年度計画:初期段階のワーキングペーパーをまず発表して、それを国内外の学会などで発表しつつ、関連する研究を行っている学者を国内外からセミナーに招聘するなどして、いろいろな研究者の意見を求めていき、論文として完成させていく。年度末にトップレベルの学術雑誌へ投稿することを目指す。 平成30年度以降計画:異なる国際金融システムの仮定に基づく理論と実証の2つ目のワーキングペーパーを作成し、それも学会やセミナーを通じて様々な意見を求め、論文として完成させ、トップレベルでの学術雑誌での発表をめざす。ほぼ同時並行して、政策的含意を主眼としたワーキングペーパーも作成し、これもまた、同様の方法で、論文として完成させていく。
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Causes of Carryover |
平成28年度はほぼ計画通り研究が進捗できたものの、国内外の学会でしっかりと発表できるほどまでには、完成しておらず、旅費をほとんど使用せずに終わった。また米国にいる研究協力者が彼の研究基金で、たまたま日本にある程度滞在する機会があり、招聘のための費用などもかからなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成29年度は、ワーキングペーパーを国内外の学会で発表していく予定であり、また研究協力者との打ち合わせや情報収集のためにも、主に米国に渡航することとなっており、平成28年度に不使用の資金は全て使用することになる予定である。
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