2016 Fiscal Year Research-status Report
金融機関のパフォーマンスと企業ダイナミクスの実証分析:相関関係と因果関係の識別
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16K03736
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
宮川 大介 一橋大学, 大学院国際企業戦略研究科, 准教授 (00734667)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 取引関係 / 企業ダイナミクス / 企業パフォーマンス / 因果関係 / 予測 / 機械学習 / ネットワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
平成28年度は、分析用データの構築を行うと共に、金融機関のパフォーマンスが顧客企業に及ぼす影響を分析するための手法の検討を目的として、(1)企業のサプライチェーンネットワークデータを含む膨大な企業属性を独立変数とした企業パフォーマンスの予測分析、(2)企業集積が企業活動にもたらす経済便益の実証分析、(3)ベンチャーキャピタル(VC)の共同投資パターンの実証分析を行った。 まず、データ構築に当たっては、当初計画通り上場企業と取引銀行のペアレベルデータ、未上場企業に対するVCの投資実績データを構築すると共に、本研究の最大の課題である「取引経済主体間(例:企業-金融機関、企業-企業)の属性の『相関』と『因果関係』の識別」を検討する上で重要な情報を与えると考えられる「企業間取引ネットワークのデータ」を、東京商工リサーチ社から取得した大規模データを用いて構築した。これらのデータセットは平成29年度以降の研究実施に当たって引き続き活用する予定である。 次に、上記のプロジェクト(1)では、機械学習手法とビックデータを用いたパフォーマンス予測分析を通して、取引先の属性変化が将来的な企業パフォーマンスの予測に有効であることを発見しており、金融機関取引が企業ダイナミクスへ与える影響を分析する際にも利用可能な手法を確立することが出来た。プロジェクト(2)においても、取引先の地理的な集積が持つ便益を実物取引に関して確認しており、平成29年度以降の研究において金融取引の文脈へこのアイデアを応用する予定である。プロジェクト(3)においては、企業の取引金融機関群がどのようなメカニズムによって構成されているかを検討するための手法(exponential random graph model)の確立に成功しており、平成29年度以降の分析において活用する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
第一に、当初計画において予定していた上場企業と取引銀行の取引関係データ及び未上場企業とベンチャーキャピタル(VC)との取引関係データの構築を完了すると共に、これらの「金融取引関係」と併せて分析に用いることが有益と考えられる「実物取引関係」データを構築した。これらの二種類のデータセットを用いることで、本研究が狙いとしている「取引経済主体間の属性の『相関』と『因果関係』の識別」を、金融取引と実物取引の両面に亘って網羅的に分析することが可能となる。このように、データ構築に関して、研究計画は概ね順調に進展していると考えられる。 第二に、平成29年度以降の研究実施に当たって利用可能な分析手法を確立することが出来た。まず、実物取引関係を独立変数の一部として用いた企業の将来パフォーマンス分析においては、近年のデータサイエンス分野での知見を取り込む形で、進んだ機械学習手法を用いた分析を行っており、標準的な計量経済学手法を補完するものとして平成29年度以降の研究において活用が可能である。次に、実物取引に関連する重要なトピックとして企業集積の経済的な意義を検討した分析においては、取引先の偶発的な倒産を一種の自然実験として用いることで、因果関係の識別に注意を払った分析を行っているほか、企業の選択の結果として集積が生じ、結果として企業行動へ影響を与えるという内生的なメカニズムを構造推定手法を用いることで処理する検討も開始しており、平成29年度以降において当初計画通りの研究を実施するための十分な準備が整ったと言える。最後に、VCの共同投資パターンを分析した研究では、ネットワーク科学の分野で広く用いられている手法を用いており、平成29年度以降の研究実施に当たって活用が見込まれる。以上の通り、分析手法の検討及び予備的な分析の実施に関して、研究計画は概ね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の通り、平成28年度においては、当初計画通りのデータ構築と平成29年度以降の分析に利用可能な手法の確立及び予備的分析を終えており、平成29年度においても当初計画に沿った研究の実施を予定通り継続する予定である。 なお、当初計画において重点を置いていた「企業と金融機関の取引関係」については、企業の資金調達を支える重要な取引関係であり引き続き中心的な分析対象となるものの、こうした金融取引関係と併せて、仕入先や販売先といった実物面での企業間取引についても十分に勘案した上で分析を行う必要があると考えられる。企業活動の根幹をなすこうした企業間取引に関して十分な注意を払わずに、金融機関取引の意義のみに注目した分析を行うことは、分析結果に対して深刻なバイアスをもたらす可能性がある。こうした観点から、平成29年度以降の研究に当たっては、当初計画に記載されている「企業-金融機関ペアレベルでの属性の『相関』と『因果関係』の識別」に加えて、企業-企業ペアレベルでの属性の『相関』と『因果関係』の識別にも相応のウェイトを置いた上で研究を進めることとしたい。 尚、本研究の成果物としては、平成28年度において既に三本の研究論文を執筆し、経済産業研究所のdiscussion paperとして平成29年度初めに刊行が確定している。平成29年度においては、これらの研究成果を査読付き国際ジャーナルへ投稿するための追加分析と改訂作業を行うと共に、既に構築済みのデータを用いて、企業と金融機関の取引関係を対象とした分析を実施し、平成29年度中に研究論文として取りまとめる予定である。また、平成28年度に引き続き、国内外で開催されるカンファレンスでの研究報告を通じて、海外の研究者から本研究の実施に対する助言を受ける予定である。
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Research Products
(7 results)