2016 Fiscal Year Research-status Report
国際資金余剰・世界金利・長期停滞:世界の対外不均衡の再拡大とその影響及び政策対応
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16K03743
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Research Institution | Kobe University |
Principal Investigator |
松林 洋一 神戸大学, 経済学研究科, 教授 (90239062)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 国際資金余剰 / 世界金利 / 長期停滞 / 期待利潤率 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、昨今論議を高めている長期停滞の可能性を、グローバルなアングルから捉え、「国際資金余剰・世界金利・長期停滞:世界の対外不均衡の再拡大とその影響及び政策対応」という研究テーマを設定し、多面的な角度から理論的・定量的に考察していく。さらにこのような考察を通じて、新たな政策対応が不可欠となることが明らかにされていく。 平成28年度は、同テーマに基づき2つの考察を行った。第1の考察は内閣府経済社会総合研究所の主催する国際共同研究プロジェクトにおいて行った。具体的にはいくつかの手法を用いて世界実質金利を計測し、貯蓄・投資バランスの枠組みに基づいて同変数の下落要因をパネルVARモデルを用いて明らかにした。検証結果より、世界実質金利の低下傾向は、主に各国の投資低迷に起因していることが明らかにされた。 第2の考察は、世界経済全体をより長期のアングルから俯瞰、展望するという形で行い、日本金融学会機関誌に招待論文の形で公表されることになった。具体的には1980年代から現在に至る世界経済の潮流を定量的な分析も加味しつつ横断的に展望している。金融の自由化・国際化は、国際的な資金移動を加速させるとともに、各国の対外不均衡を常態化させる。そして国内外の金融市場の変化は各国の実体経済に様々な変化をもたらすことになる。そこで金融の自由化・国際化が本格的にスタートした1980年代以降の世界経済を、対外不均衡を視軸として多面的なアングルから考察している。2000年代の経常収支不均衡(グローバル・インバランス)に伴う実体経済の活況は、現在長期停滞という形で調整局面を迎えている。さらにその背後では様々な不確実性が生じ始めており、世界経済をより不安定なものとしつつある点が実証的に明らかにされた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究の進捗は概ね順調であり、以下に列記する4つの研究成果を挙げることができた。 まず第1は、内閣府経済社会総合研究所の主催する国際共同研究プロジェクトにおいて行った成果を「国際資金余剰・長期金利・長期停滞」としてまとめ、「経済分析」第193号(査読付き)として公表した。同論文では、複数の手法で世界実質金利を計測し、貯蓄・投資バランスの枠組みに基づいて同変数の下落要因をパネルVARモデルを用いて明らかにした。検証結果より、世界実質金利の低下傾向は、主に各国の投資低迷に起因していることが明らかにされた。第2は、1980年代以降の世界経済の長期的なダイナミズムを、対外不均衡を 視軸として展望した。現下の世界経済はリーマンショックに端を発する形での長期的な調整局面にあり、その主因は投資低迷にあると考えられる。この投資の低迷は貯蓄・投資バランスのアングルから見ると、世界的な資金余剰、すなわち対外不均衡の拡大をもたらすことになる。そして実物資本の収益率低下のもとでの国際的な資金余剰は、金融部門における不均衡を再び加速化する危険性をはらんでいる。この考察は日本金融学会の機関誌「金融経済研究」における招待論文として公表される予定である。第3は、欧州における実物資本の期待投資収益率を企業のミクロデータを用いて計測するという考察を行った。具体的には欧州各国の財務データを用いて「Tobinの限界q」を計測した。欧州ではリーマンショック以降、経済の長期停滞の様相が顕著であるが、その真因である実物投資の期待収益率の動向を定量的に把握しておくことは、きわめて重要であると考えられる。計測結果は概ね予想通りであり、欧州各国の期待利潤率は、リーマンショック以降、概ね低下傾向を鮮明にしている。この考察は、2016年10月ブリューゲル研究所(ベルギー)、2017年1月にロンドン大学SOASにおいて発表した。
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Strategy for Future Research Activity |
以下の3点の形で研究を発展させていきたいと考えている。第1は、欧州諸国において試みた期待利潤率の計測を、世界各国の適用させてみるという考察である。2010年代に入り喧伝でされている「長期停滞」の議論は概ね先進諸国が対象となっていた。しかし新興経済諸国の動向についてはあまり議論されてはいない。リーマンショック以降、世界の経済取引の停滞は「Great Trade Collapse」という形で顕在化したが、その鍵となるのは世界的な実物投資の停滞を背景とする資本財取引の大幅な低下であった。このような動向を踏まえるならば、先進国のみならず新興国を含む世界経済全体の実物資本の期待利潤率について精査しておくことはきわめて重要な作業であると考えられる。 第2は、世界的な企業貯蓄の要因に関する考察である。企業貯蓄とは企業活動における最終的な剰余金(内部留保)であり、経済活動が活況を呈し成長率が上昇するにつれて増加すると考えられる。しかしリーマンショック以降、各国の企業が高まる不確実性のもとで自己防衛的、予備的な動機から内部留保を積み増している可能性がある。本研究では企業の期待利潤率の計測と同様に、各国のミクロデータを用いて検証していくことにする。 第3は「グローバルな自然利子率」の計測である。現実に観察される市場利子率が貯蓄と投資を均等化させる自然利子率よりも高い場合、財市場では貯蓄が投資を上回っていることになる。この状態では不況が発生し物価は下落することになる。このように自然利子率の概念は、マクロ経済における情勢判断のみならず、マクロ経済政策の有効性と限界を理解する上で、きわめて重要な役割を演じることになる。そしてグローバル化の進展する今日の世界経済において、自然利子率の概念は、グローバルな枠組みにおいて理解することが可能である。これが「グローバルな自然利子率」に他ならない。
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Causes of Carryover |
当初計画していた英文校閲代の費用が予算よりも若干安価で行うことができたため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の英文校閲代に補てんしたいと考えている。
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Research Products
(2 results)