2020 Fiscal Year Research-status Report
後悔回避、価格変動と市場効率性:感情と市場のフィードバックから考察する
Project/Area Number |
16K03758
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
秦 劼 立命館大学, 経済学部, 教授 (40329751)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2022-03-31
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Keywords | 後悔 / 後悔回避 / 後悔理論 / 資産価格 / 証券投資 / 意思決定 / 感情 / リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、後悔と資産価格評価に関する理論モデルを完成した。研究成果をまとめた学術論文「Regret-based Capital Asset Pricing Model」はJournal of Banking & Financeに投稿し、掲載された。この論文は、期待収益の最大化を追求しつつ予期される後悔の最小化を求める投資家の投資戦略を導き、その上、後悔回避が資産価格評価に与える影響を考察した。主要な結果は下記の通りである。まず、均衡において、証券市場が全体として正の「後悔プレミアム」を支払わないといけない。各証券が後悔回避に影響される度合いはその証券の「後悔ベータ(regret beta)」によって測ることができる。均衡では、リスク資産の期待収益率はその資産の後悔ベータに比例する。このモデルは、後悔ベータが株式収益率のクロス・セクション構造に説明力を持つことを示唆する。また、このモデルは、多くの国の証券市場で観察された「平坦な証券市場線(flat SML)」と「プレミアム・パズル(premium puzzle)」などの現象も説明できる。このように、本研究のモデルは後悔が証券市場に与える影響を理解するための理論的枠組を提供した。 本年度は、経済学および隣接分野で行われた後悔と意思決定に関する研究資料の整理分析も行った。後悔回避とエイズ予防行動に関する研究観望論文「感情,リスクと意思決定:後悔がHIV 予防行動に与える影響を中心に」(共著)は『立命館経済学』第69巻第2号に掲載された。また、後悔理論と資産価格評価に関する研究観望論文「後悔理論と資産価格評価モデル」は『立命館食科学研究』第5巻に掲載された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究計画の目標は概ね達成し、主要な研究成果は学術論文「Regret-based Capital Asset Pricing Model」にまとめた。この論文は権威のある学術誌Journal of Banking & Financeに掲載され、研究成果の国際的発信もある程度達成できた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、これまでの研究で構築した理論モデルの応用と検証を中心に研究を進める予定である。Zeelenberg and Beattie (1997)、Raeva et al (2010)、Buchel et al (2011)どが行った実験では、後悔回避が人々のリスク選好を影響する結果が得られた。現実の世界では、後悔回避が家計の貯蓄行動、投資戦略、年金運用、保険加入などに大きな影響を及ぼすと思われる。そこで、本研究課題の今後の推進方策としては、これまで研究で得た結果に踏まえて、後悔と家計の金融意思決定に焦点を当てて考察を進めたいと考える。
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Causes of Carryover |
2020年度では、コロナ感染拡大の影響で、海外出張、国内出張、経済実験などができなったため次年度使用額が生じた。2021年度では、国内外の学会と研究会に参加するための旅費が必要である。また、経済実験もしくはシミュレーションに通して前年度に構築したモデルを検証するための人件費と設備費なども必要である。
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