2016 Fiscal Year Research-status Report
総合商社における営業組織構造とリスクテイク・リスク管理の比較研究
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16K03768
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Research Institution | Saitama University |
Principal Investigator |
鈴木 邦夫 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 名誉教授 (50132783)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
大石 直樹 埼玉大学, 人文社会科学研究科, 准教授 (00451732)
大島 久幸 高千穂大学, 経営学部, 教授 (40327995)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 総合商社 / 三井物産 / 三菱商事 / リスク管理 / リスクテイク / 価格変動リスク / 与信リスク / 約定履行リスク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は1947年解体までの三井物産・三菱商事について、①両社の異なる営業組織構造(分権的と集権的)に基づく、商品取引に付随するリスクテイク・リスク管理の仕組みを明らかにし、②実際のリスクテイクと管理の様々な事例を分析することによって、両者がどのように商社間競争において優位(あるいは劣位)に立ったのかを明らかにし、③それによって総合商社が、なぜ単なるメーカーの代理人ではなく、世界市場において独自に活動する主体となりえたのかを明らかにすることである。 この目的のため研究を進め、その成果を社会経済史学会全国大会(2016年6月北海道大学で開催)でパネル・ディスカッション「戦前期総合商社における組織構造の選択と形成―分権組織と集権組織―」というテーマで発表した。具体的には、鈴木邦夫が三井物産の分権的組織の形成とその内容、大石直樹が三菱商事の集権的組織の形成とその内容、大島久幸が両商社の人的資源と組織構造との関連を報告した。それらによって両商社の営業組織構造の違いを明確にすることができた。 さらに、鈴木邦夫が論文「先収会社をめぐる言説」『三井文庫論叢』50、2016年12月、大石直樹が論文「三菱石油の設立交渉と意思決定プロセス」『三菱史料館論集』18、2017年3月を発表した。前者は、三井物産の前身の先収会社において、米穀取引について価格変動リスクをどのようにテイク・管理し、またリスク管理の前提となる複式簿記をどのように導入・定着させたかを明らかにし、さらにそれらが三井物産に引き継がれていくことを指摘した。後者は、米国の石油会社と三菱財閥との合弁会社三菱石油の設立について、三菱財閥での意思決定過程を分析した。それによって、三井物産が独自の意思(リスク負担)を貫いて合弁会社を設立できたのに対して、三菱商事の場合には三菱の本社部門からの制約を強く受けたことが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
三井文庫と三菱史料館を継続的に訪問して、リスク関連資料を撮影・収集し、中国の南京第二档案館を訪問して日本の総合商社関係資料の所在調査をおこなった。三井文庫所蔵資料、三菱史料館所蔵資料、米国国立公文書館所蔵資料、濠州国立公文書館所蔵資料を使って、三井物産・三菱商事におけるリスク管理のルールや、リスクの限度を決定する仕組み、リスク管理を担当する組織の権限・業務、営業組織への意思伝達と営業組織からの申請・回答方法など、制度に重点をおいて分析をおこなった。 とくに、総合商社に関わる様々なリスクのうち、為替変動リスクのテイク・管理に関しては、外国為替の解説書に記されていない独自の仕組み( House Bill=社内の他店を引受人とした手形、ロンドン支店の引き受け、社内為替)が三井物産・三菱商事においてどのように形成され、運用されたのかを明らかにし、そのうえでさらに為替管理組織の設立構想や本部による為替管理の仕組みを鈴木と大島が分析した。 また商品部の機能・役割を解明するため、三井物産木材部本部の移転問題(小樽から東京への移転)を素材として、三井物産の商品部本部が具体的にどのような役割を担っていたのかを、商品取引業務や人員採用に即して大石が検討した。 人事制度に関しては大島が、三井物産では、正職員(「職員」)については第1次大戦期に新卒採用に一本化されること、その後、中途採用者については「特務職員」として採用すること、他に「準職員」(店限り雇いの職員)や女子事務員を採用することなどを実証的に明らかにし、さらに新卒で採用された職員の1937年段階での昇級実態を分析した。 このような各人の分析結果を定例の研究会で報告し、三井物産と三菱商事でどのように違うのかや、さらになぜそのような違いが生まれるのかについて議論し、事実認識を共有した。
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Strategy for Future Research Activity |
国内の三井文庫・三菱史料館や海外の米国国立公文書館などを訪問し、資料を収集する。研究計画作成段階で予定していた濠州国立公文書館に関しては、同館所蔵の日本企業関係資料(三井物産、三菱商事を含む)が日本の国立公文書館に寄贈されることになったため、濠州への訪問を見送り、今年度は他館での資料収集へ力を振り向ける。上記濠州の資料は、日本で閲覧可能となってから撮影により収集をおこなう。 平成28年度におこなった制度面の分析を踏まえ、平成29年度では以下の二点に焦点を当てて分析する。第一に、価格変動リスクに関しては、三井物産について、個別の商品(穀物、金物、生糸、綿花、麻、ゴムなどと、包装のための補助材料)と外国為替・船舶運賃に関して、どのように支店・部でリスクテイクがおこなわれたのか、また、本店から遠隔の地にある支店のリスクテイク状況を本店はどのような手段で把握し支店を統制できたのか、あるいはできなかったのかを分析する。三菱商事については、設立後まもない時期では三井物産と同様の分析をおこなう。しかし、三菱商事はまもなく価格変動リスクの管理に失敗するため、その後の時期では、どのようにリスクを回避する行動をとったのかを分析する。 第二に、与信リスクに関しては、支店・部でリスクテイクに失敗(商品代金・貸付金の回収不能)した場合、本店あるいは支店・部の帳簿上でどのように会計処理(滞貸金とみなして処理)がおこなわれたのか、またこの処理後、どのように滞貸金を管理し、それを回収しようとしたかを明らかにする。 さらに平成30年度では、価格変動リスクや与信・約定履行リスクのテイクで失敗した場合、発生した多額の損失をどのように補填したのかを、とくに「リザーブ」(秘密積立金)に焦点を当てて分析する。 毎月、研究会を開催し、分析結果を報告し、学会誌・紀要に論文として投稿する。
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Causes of Carryover |
鈴木が大学夏休み中の9月に米国国立公文書館を訪問し資料収集をおこなう予定であった。しかし、直前に間質性肺炎であることが判明し、その検査と治療のため約3週間の入院が必要となり、退院後も治療をしなければならなくなったため、米国出張を中止せざるをえなくなった。10月からは授業が始まったため、結局、米国出張ができないまま年度末となった。そのため次年度使用額が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
大学夏休み期間中に米国国立公文書館を訪問する。この米国出張の際に、前年度から繰り越した資金を使う予定である。
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