2018 Fiscal Year Research-status Report
近代日本農村の学童の身体体格成長とその社会経済史的要因分析
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16K03775
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
友部 謙一 一橋大学, 大学院経済学研究科, 教授 (00227646)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2020-03-31
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Keywords | 経済発展 / 体格 / 栄養 / 世帯 / 農家副業 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、最近の身体研究(身長や栄養など)や人口学研究(乳児死亡)の知見に基づき人的資本の成長の痕跡を再構成し、それと実質賃金や所得で計測した経済成長の軌跡との比較を通じて、人的資本の根幹である人間の生理学的な成長とマクロ経済的な成長を結び付ける可能性を近代日本の学童研究を通じて探ることである。 本年度は、完成したプラットフォームにおいて、入力全数データを対象とした、分類・抽出・データ加工・記述統計の分析とその表示の最終確認を行った。その後、中心史料である座光寺尋常高等小学校の学籍簿のデータファイルを使い、分析を進めた。個別の分析課題として、1)出生順位(学籍簿に表記された親との関係)と身体体格の成長との関係:ここでは第1子と第1子以降の児童の身体成長格差を検証することを通じて、世帯内の資源再配分状況に性差や年齢差が確認できるかどうかを確かめる、2)就学継続児童と就学停止(就業・退学)児童の身体成長軌跡の比較:どのような体格的特徴をもった児童が就学(就業)を継続するのかを確かめることにより、経済史の二重構造論で対象となる学童期の人的資本の身体的特徴を知る手がかりとした。実際には、地域の副業状況や世帯の就業環境の変化に対して、学童の体格成長がいかに反応したのかを中心に考察を行った。その結果については、"Height, nutrition and the side production of sericulture and carp feeding in modern rural Japan: the case of Zakouji-village, Shimo-Ina gun, Nagano, 1880s-1930s"にまとめ、英文論文として国際学術雑誌(Australian Economic History Review)へ投稿し、現在審査中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
調書では、今年度は座光寺尋常高等小学校の学籍簿の1)学籍簿基礎データファイルによる記述統計の整備とその個別分析、および2)比較史を展望したサーベイ論文の作成と国際学会での報告を主要な課題として、取り組む予定であった。1)については、座光寺尋常高等小学校学籍簿(飯田市歴史研究所所蔵)のデータファイルをつかい、記述統計の完全作動を確認し、実際に、クロス統計ならびに回帰分析まで行うことができた。とくに、そこに含まれている個人情報の取り扱いに関するルールを順守しながら、学籍簿にある1)児童に関する個人情報:①本籍地②児童氏名③生年月日④学齢満期日、2)児童の就学・就業状況:①入学年月日②入学前の経歴③卒業(退学)年月日④退学理由、3)保護者に関する個人情報:①保護者氏名②職業③住所④児童との関係⑤備考、4)児童の身体状況:①身長②体重③体格状況などをキー変数として、完全な分類仕訳とクロス統計を実施できたことは重要であった。 その上で、当該地域での中長期的な経済変化(農家副業化を中心とした)に対する、様々な体格指標がいかなる変化を見せるのかを分析考察を行うことに成功した。その結果をまとめ、上記に記したように、国際学術雑誌への投稿と分析概念を同じくする別な英語論稿"Changes in female height and age of menarche in modern Japan, 1870-1980s: Reconsideration of living standard during the interwar period"をまとめ、国際学術論文集の1章として出版される予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
当該年度以降も今年度同様に作成した学籍簿基礎データファイルに基づき分析を進め、その研究成果を速やかに国際学会などで報告し、引き続き国際学術誌への投稿もしくは招待投稿の機会を探っていきたい。また、本研究終期にかけて同地域(長野県飯田市周辺地域)の他校史料の基礎調査を併せて行いたい。さらに、調査対象を全国(とくに都市部)に拡大し、現在地域と比較可能なさまざまな異なる背景をもつ学校の学籍簿の発見に努め、そのデータファイル化を地域と協議のうえに慎重に進めたい。下記の事項については今年度同様に継続することにしたい。 学籍簿基礎データファイルによる記述統計の整備とその個別分析 全児童、出生年コーホート(同時集団)、入学年コーホート、学年コーホート毎の身長体格成長ファイル(分析のためのファイル)を作成し、併せて身体体格軌跡図(ボックスプロット図を作成して、同時集団内部の分散状況と時系列変化を同時に効果的に表示する)を作成する。つぎに、その基礎データファイルに基づいた個別分析であるが、分析課題として、今年度からの継続課題として引き続き、出生順位(学籍簿に表記された親との関係)と身体体格の成長との関係:第1子と第1子以降の児童の身体成長格差を検証することを通じて、世帯内の資源再配分状況に性差や年齢差を確認できるような新たな事象の発見につとめる、さらにその他にも、学童期の人的資本の身体的特徴を知る手がかりとなる新たな体格事象の発見につとめたい。これらの研究成果は、令和元年度に行われる国際学会Social Science History Association(シカゴ)、European Social Science History(ライデン)もしくはEast Asian Environmental History(台北)で報告予定である。
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