2016 Fiscal Year Research-status Report
ナチズムの「中間層テーゼ」の再検討と第三帝国食糧経済の経済秩序に関する研究
Project/Area Number |
16K03784
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
雨宮 昭彦 首都大学東京, 社会科学研究科, 教授 (60202701)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | ナチズムの中間層テーゼ / 国家食糧団 / 国家世襲農場 / 生産闘争 / 家族世襲財産解体法 / 国家自然保護法 / 東部救済事業 / 国際金融 |
Outline of Annual Research Achievements |
農村社会とナチズムの台頭との密接な関係は従来から指摘されてきたが、とりわけシュレスヴィッヒ・ホルシュタイン州に関するルドルフ・ヘベルレの研究が主張した命題、すなわち、中小農民層こそはナチ党の支持基盤であり、大土地所有や農村プロレタリアートはナチズムに影響されにくかったとの命題がこれまでの研究史において定説の位置を占めてきた。 本研究では、ナチス政権成立に至る選挙統計と1930年代の農業経営調査を資料として、ドイツの各選挙区における、一方での経営規模別にみた農業就業者数・経営数および農業労働者数と、他方でのナチ党・保守党得票率との、また、一方でのナチ党得票率と他方での保守党得票率との関係について回帰分析を行い、ヘベルレの命題に反して、ナチズムの台頭と大土地所有との間にこそ最も強い相関性が認められることを析出した。 この分析を踏まえて、まず、第三帝国の経済秩序に関する新自由主義(オルド自由主義)の法学者フランツ・ベームの食糧経済論を批判的に再検討し、国家食糧団、国家世襲農場、生産闘争という第三帝国の3つの代表的な農業政策と、政策課題としての所得均衡、食糧自給、人口政策との関連を明らかにし、この関連が時間の推移の中で変化していき、最終的に、東欧侵略に関する「東部ヨーロッパ総合開発計画」へと展開していく過程に照明を当てた。 次いで、ベームの検討からは外された大土地所有に焦点を当てて、第三帝国において成立した家族世襲財産失効法と一連のエコロジー法の総括としての国家自然保護法との関連を、世襲財産制解体後の大土地所有維持の新たな枠組みの視点から、関連する法令分析を通じて明らかにし、またワイマール期から継続した東部救済事業における大経営への巨額な融資とその借り換え過程で登場した国際金融との関係を新しい研究史を参照しつつ整理して、大土地所有が第三帝国で果たした機能を析出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
ナチズムの中間層テーゼを批判的に再検討する実証作業を完了し、それを踏まえて、第三帝国の経済秩序における食糧経済にアプローチする方法を確立したうえで、その食糧経済の経済秩序の政策と課題、およびその中で、大土地所有を維持する新しい法的制度的枠組みを明らかにし、この階層が担った機能の一部へとアプローチしえた。
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Strategy for Future Research Activity |
今回の研究によって明らかにしえた所得均衡、食糧自給、人口政策と農業政策との関連をいっそう実証的に明らかにするとともに、大土地所有が第三帝国において果たした機能をさらに深く分析する。この研究を通じて経済史分析の手法についても、回帰分析や生産関数や成長会計など新たなツールを導入していきたい。
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Causes of Carryover |
一時病気のため収集しきれなかった史・資料等が生じた。そのため、とりわけ家族世襲財産失効法と国家自然保護法をはじめとする一連のエコロジー法に関しては、法令原文の分析はほぼ終えたが、今後、関連する諸文献・統計類に視野を広げていく必要がある。また、東部救済事業とその借り換えの過程で発生した国際金融(アメリカ債)との関連についても、さらに海外文献の収集が必要であると感じている。さらに、国家食糧団の政策課題が、1936年以後、農・工商間の所得均衡目標から物価抑制目標へと転換していく過程についても、さらに文献、史・資料を狩猟する必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
(1)家族世襲財産失効法と国家自然保護法をはじめとする一連のエコロジー法に関して、関連する諸文献・統計類の収集。(2)東部救済事業とその借り換えの過程で発生した国際金融(アメリカ債)との関連に関する海外文献の収集。(3)国家食糧団の政策課題の転換過程に関する文献、史・資料の収集。
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