2016 Fiscal Year Research-status Report
ドイツ航空機産業の世界的転回―世界の勃興期航空機産業との関連の解明―
Project/Area Number |
16K03785
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Research Institution | Yokohama City University |
Principal Investigator |
永岑 三千輝 横浜市立大学, 都市社会文化研究科, 客員教授 (70062867)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 秘密再軍備 / ナチス / ユンカース / ハインケル / ドルニエ / 軍用機禁止 / ヴェルサイユ体制 / 空軍禁止 |
Outline of Annual Research Achievements |
第一に、ナチス秘密再軍備(1933-35)期の急激な航空機生産(爆撃機・戦闘機。偵察機)を可能にした生産的基盤は何かを解明した。それを「ドイツ航空機産業とナチス秘密再軍備」横井勝彦編『航空機産業と航空戦力の世界的転回』(日本経済評論社、2016年12月刊)第3章として発表した。連合国による厳しい監視と軍用機禁止の下で、ドイツ航空機産業の主要企業(ユンカース、ドルニエ、ハインケル)は、国内・国外の民間機需要にこたえて市場を開拓し、機種を開発していった。しかし、ドイツ航空機産業の当時の世界的水準は諸外国の需要、中でも世界各国の軍用機需要によって影響を受け、それは国外で製造ないし組み立てを行うほかなかった。開発の基本的部分は国内で行っても、実際の製造は国外において行った。 その過程で、諸外国の軍需の高い要望に応じる必要もあって、技術開発を進めて行った。そうしたドイツ航空機産業のヴェルサイユ体制下の開発努力をナチス政権は丸ごと手にした。そして、秘密再軍備期には、航空省による民間機生産を前面に押し出していった。内実は、民間機製造であっても補助爆撃機として再軍備政策に位置付け、転用可能生を追及した。 第二に、そうした技術開発・市場開拓の点で、ソ連と日本の位置が大きかったが、その日本について、主としてユンカース文書(ドイツ博物館所蔵)を調べ、「ユンカースの世界戦略と日本」(『横浜市立大学論叢』第68巻 社会科学系列 第2号、2017年2月刊)にまとめた。そこでは、厳しい制約下にあるユンカースと航空機後進国としての日本の軍用機需要とがどのように結びついていたかを明らかにした。 日本側の実に多様な経路でのユンカースへの接近とこれに対するユンカース社の対応などは、我が国は勿論世界的にも、未開拓の問題領域であり、ドイツ博物館での調査、そのための科研費活用が大きな意味を持ったと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「ドイツ航空機産業の世界的転回―世界の勃興期航空機産業との関連の解明―」の課題につき、航空機産業先進国ドイツから、後進諸国への移転の筋道が、第一に曲線的にであったこと、すなわち、民需開拓を進めるが買い手の要求により軍用機転用を可能にするやり方をとったこと、第二にジグザグに危機を打開していったこと、すなわち、秘密裏にソ連に工場進出したがジュラルミンをはじめとする原料等の調達困難やソ連側の厳しいい契約条項とその履行困難などにより、挫折し、軍用機生産のために工場進出先を変えること(ユンカースの場合スウェーデン)といった多様な「転回」プロセスを、「ドイツ航空機工業とナチス秘密再軍備」、および「ユンカースの世界戦略と日本」で明らかにすることができた。 そうした解明を踏まえるとき、次の課題が浮かび上がった。 すなわち、それでは、航空機産業の後進国・特に中国では事態はどうであったのか。また、逆に、アメリカとの関係ではどうだったのか。 ドイツ航空機産業はこれら諸国に対しどういう戦略を練り、行動したのか、その政策理念はどうだったのか、相手諸国の状況との関係はどうだったのか、などを解明していく必要性が明確になった。 その意味で、初年度の研究の一段階前進を確認できた。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の進捗状況で説明したように、世界の勃興期航空機産業とドイツの航空機産業の関係で解明すべき対象として、一方では後進国・中国の実態分析が必要だということ、他方で、逆に急速に発達するアメリカ航空機産業との関係はどうなっていたのか、ということが、本年度の課題となる。 そのために、ドイツ博物館のアルヒーフのユンカース文書、ハインケル文書、それに航空業関係文書にさらにアクセスし、実際に文書館に出向いて、史料の発掘・解釈の作業を進めることになる。
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