2018 Fiscal Year Research-status Report
ものづくり経営における販売現場の役割に関する実証研究
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16K03805
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Research Institution | Yokohama National University |
Principal Investigator |
Heller Daniel 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 教授 (00362096)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
本橋 永至 横浜国立大学, 大学院国際社会科学研究院, 准教授 (50707239)
佐藤 秀典 筑波大学, ビジネスサイエンス系, 准教授 (70588293)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 経営学 / ものづくり / 販売 / 従業員満足 / 顧客満足 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではものづくり経営において販売現場が果たす役割を明らかにしその重要性を検証するために、日本の自動車販売店舗を対象に研究を行う。特に、効率的な組織づくりによるホワイトカラーの労働生産性向上や、顧客との継続的な関係構築によるアフターサービスからの安定収益獲得モデル等について示唆を得て、日本の製造業企業の競争力強化の一助となる研究を目指す。 本年度は、研究代表者は台湾を訪問し複数の自動車販売業界の会社を訪問するとともに、台湾の国立成功大学で研究成果の発表を行った。台湾には日本の最大手の自動車メーカーが進出し大きなシェアを獲得している一方で、少子高齢化など日本と類似した問題に直面しているため、日本と台湾のディーラーを比較しつつ双方の歴史と現状について把握した。また、ゼミ生が関西圏の自動車ディーラーの代表取締役、本部役員、店舗、中部圏の自動車販売会社の取締役を訪問しヒアリングを行いその報告をした。 日本の自動車の新車販売は1980年代には、600万台市場となり、1990年前後の最盛期に向けて拡大期を迎える。拡大期であるため新車をどれだけ売るかを重視し、サービスには目が届かない状況であった。90年代に入りバブル経済が崩壊すると、新車の販売台数も減ってきた。しかし、90年代までに店舗や人材に多額の投資をしてきたため、それを回収したり、どのように活用するのかが課題となった。90年以前は店舗のサービス課が客を呼び込む接客応対と技術的なメンテナンスとの分業体制がはっきりしていた。90年代以降は、新車販売の営業スタッフと店舗でのサービスを同じ担当が引き受けることが、顧客満足につながると考えられるようになった。自動車販売店舗は、営業担当者を送り出す営業所から、顧客を迎える店舗という意識への変化も生じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2018年4月には、関西地方の自動車メーカーの拠点となっている工場への見学・質疑応答を行った。これは、自動車問題研究会の活動の一環として行ったが、この見学を通して面識を持ったメーカーの方から、滋賀県内のこのメーカーのディーラーをご紹介頂きゼミ生による調査の機会を得た。 また、2018年5月には関東地方の自動車販売会社に務めていた実務家経験のある研究者と調査に関する相談や、相互の調査内容・計画の共有を行った。ここでは、自動車販売会社の営業スタッフの行動を詳細に観察し、どのような段階にどの程度の時間を掛けるのかを把握する重要性が示された。そして、価値を生み出す活動の流れを把握し、活動全体のうち、不要な作業を削り、必要だが直接価値を生むわけではない活動を最小化する必要がある。価値を生む作業の時間を伸ばし「打率」を高めることが必要だと思われる。 また、8月には愛知県への工場見学を行った。この会社は現在は主にフォークリフトを製造しており、日本の大手自動車メーカーの親会社である。その工場の見学においては、生産を効率的・安全に行いコストカットをするとともにムダな原料の使用や廃棄を省き環境に貢献するための改善活動について把握した。ここでは、現場の作業員たちによる様々な改善の実例に触れ、小規模な改善から大規模な改善について知見を得た。また、改善活動の地盤を整え奨励するリーダーの役割の重要性を再確認し、それは販売活動にも通じるものがあると思われた。 以上を通して、日本の自動車販売会社の現状や課題を多面的に把握した。自動車販売業は、メーカーによる独占的な販売チャネルの形成などにも見られるように独自の特徴を持った業界といえる。本年の調査結果はそこにおいてアンケートによる定量調査を行うにあたって、様々なコントロールすべき変数について把握する意味を持っていよう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究では「販売力」を計り、ホワイトカラーの生産性の向上やアフターサービス収益強化について引き続き研究をするが、同時に少子高齢化で悩む日本や台湾をはじめとする多くの国や地域が直面する重要な課題においても有用な対策を導き出せる研究にできることがこれまでの研究活動を通じてわかった。特に、営業スタッフとサービススタッフの協調やそれら店舗のスタッフによる店舗のサービスの改善の重要性は示されたものの、これらのメカニズムや相互作用について深掘りをする必要があることもわかった。少数の事例に基づく、本研究の現在までの成果の普遍性についてはさらなる検討が必要と思われるため、それに答える必要がある。また、従業員満足や顧客満足などステークホルダーとの関わりについても検討する必要がある。したがって、予定していたアンケート調査の実施を先延ばし、事例研究を続けることとした。本研究の3年目までの成果を踏まえつつ、アンケート調査に展開する前に、4年目においても事例の数を増やしながら事例研究を継続して行なう。その際に、営業力(販売力)や車の商品力という大枠を意識しつつ、マネージャーのリーダーシップやディーラーを取り囲む地域性などより具体的な項目を探索しその意味・重要性を検討していきたい。それら管理上の要因が、従業員満足や顧客満足などの中間成果を通して、売上や競争力などの最終成果にどのようにつながるのか、広く把握するための準備を行っていきたい。
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Causes of Carryover |
大学の用務が立て込み、当初予定していた出張ができなかった。また、アンケート調査の実施を2019~2020年度に先送りしているため、繰りこした。
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