2018 Fiscal Year Research-status Report
戦略的思考、機会主義、心理バイアスを考慮したリアルオプション理論の研究
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16K03811
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Research Institution | Kagawa University |
Principal Investigator |
嘉本 慎介 香川大学, 経済学部, 教授 (20511463)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2021-03-31
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Keywords | 企業財務 / リアルオプション |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、不確実性下における企業の投資・財務活動に関する意思決定と、それらの意思決定が企業の株式や負債の価値に及ぼす影響を理論的に分析することである。特に本研究では、リアルオプション理論に関する既存研究では十分に考慮されていないが、現代企業の投資・財務戦略に関する意思決定の分析において考慮されるべき二つの要素、「1.競合企業の行動に対する戦略的考慮」と「2.経営者の機会主義や心理バイアス」が企業投資・財務戦略の意思決定に及ぼす影響を理論的に考察する。また、それらの要素が不確実性下における投資の実施タイミングや株式と負債の資本構成に関する意思決定に及ぼす影響を考察するとともに、それらの意思決定が株式と負債の価値に及ぼす影響を明らかにする。 今年度は、昨年度に実施した研究を踏まえて、潜在的競争企業による市場参入の脅威が存在する事業環境下において、新製品の製造・販売を計画する先駆企業による事業投資の意思決定と社債発行による資金調達の関する分析を引き続き行った。本研究では、社債発行によって生じる株主と債権者の利害対立のため、先駆企業の事業投資の意思決定が企業価値を最大にする最適な投資の意思決定より前倒しされることを明らかにした。さらに、潜在的競争企業による市場参入の脅威が存在するとき、先駆企業の社債発行が潜在的競争企業の市場参入を促すとともに市場環境が後退していく環境において先駆企業を市場から締め出すインセンティブを創り出す結果を示した。また、市場環境が後退する局面における潜在的競争企業の市場参入によって市場から締め出される可能性をから先駆企業による社債発行が抑制されること、そして社債発行によってもたらされる株主と債権者の利害対立から生じる投資の意思決定の前倒しというエージェンシー問題が緩和される結果を導いた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
今年度は、昨年度に引き続き潜在的競争企業による市場参入の脅威が存在する事業環境下において、新製品の製造・販売を計画する先駆企業による事業投資の意思決定と社債発行による資金調達の関する分析を引き続き行った。既存のリアルオプションの理論モデルもとに昨年度に構築した先駆企業による新製品の製造・販売に関する投資の意思決定と社債発行による資金調達について、潜在的競争企業による市場参入の脅威を明示的に考慮した理論モデルにもとづいて、潜在的競争企業による市場参入の脅威が新製品の製造・販売を計画する先駆企業の事業投資に関する意思決定、社債発行による資金調達、エージェンシーコストに及ぼす影響について分析を行った。また、一昨年度に開始した潜在的競争企業による市場参入の脅威が既存企業の生産設備の拡張とファイナンシャルレバレッジの選択に関する意思決定に及ぼす影響に関する研究について、構築した理論モデルを拡張した発展研究を開始した。学内業務が多忙のため研究時間が十分に確保できず、どちらの研究についても、一昨年と昨年度に実施した研究結果を踏まえた新しい成果を得るには至らなかった。また、研究成果を論文としてまとめる作業も当初の予定より遅れている。
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Strategy for Future Research Activity |
競合企業の行動に対する戦略的考慮が企業投資・財務戦略の意思決定に及ぼす影響を分析する研究については、昨年度と今年度に実施した研究を基礎にして研究 を継続していく。とくに、潜在的競争企業による市場参入の脅威が既存企業の生産設備の拡張とファイナンシャルレバレッジの選択に関する意思決定に及ぼす影 響について、市場の不確実性と成長率の変化が与える影響を分析する。さらに、コーポレートファイナンスに関する最新の研究について文献の収集・研究を継続 していくとともに、本研究の分析結果に関する政策的なインプリケーションなどについて考察を行うことを予定している。 経営者の機会主義や心理バイアスが企業投資・財務戦略の意思決定に及ぼす影響については、経営者の機会主義や心理バイアスと企業の事業・財務戦略の関連性 等を扱うコーポレートファイナンスの最新研究を中心に文献を収集・精査の作業を継続して実施する。そして、学術・ビジネス実務の観点から新たな知見を導く可能性の高い経営者の機会主義や心理バイアスの問題を吟味していきながら、不確実性下における企業の 投資と資本構成の意思決定にその問題を考慮した理論モデルを設計することを計画している。
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Causes of Carryover |
当初予定していた物品費、英文校正費、学術誌への投稿費等を使用しなかったため。
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