2016 Fiscal Year Research-status Report
経験価値ブランディングと口コミ形成による脱コモディティ化戦略に関する実証研究
Project/Area Number |
16K03858
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Research Institution | Kanazawa University |
Principal Investigator |
白石 弘幸 金沢大学, 経済学経営学系, 教授 (60242707)
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Project Period (FY) |
2016-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 口コミ / ブランディング / 体験型施設 / 体験型プログラム / ウォッシング / 環境経営 / エデュテインメント / コーポレートブランド |
Outline of Annual Research Achievements |
株式会社えびせんべいの里、株式会社東京かねふく、株式会社東芝環境推進室に対しヒアリングを行い、三社が設置している体験型施設「えびせんべいの里」「めんたいパーク大洗」「東芝未来科学館」の設置趣旨と規模・人員、運営方針等について知見を得た。またこれら三つの施設を見学し、展示コンテンツと体験プログラムを調査した。さらに施設来場を契機にしたコーポレートブランドを含む口コミの形成状況を口コミサイト「トリップアドバイザー」で調べた。 えびせんべいの里は「えびせんべいの里太陽光発電システム」を運用し、発電状況をリアルタイムでわかりやすく施設内のモニターで可視化している。出荷困難品を試食品や飼料に利用する廃棄物減量策も講じられ、フィンガータッチ式の説明端末で紹介されている。トリップアドバイザー上の口コミはほぼ全てが他者にも来場を促すもので、体験焼きが楽しい、試食品が豊富で飲み物が無料、工場見学が面白いというものが多い。 東京かねふくのめんたいパーク大洗は、飲み物提供等を伴うホスピタリティ、公開型工場の見学、魚介類や漁業の「学び」スペース設置、製品を題材にしたクイズとゲームの端末導入で来場者の増大、「にぎわい」形成に大きな成果をあげている。さらに独自キャラクターでエンタテインメントと教育の複合「エデュテインメント」を強化し、また親しみやすい空間を演出している。トリップアドバイザーへの投稿口コミはパーク来場者により発信され、試食が充実、商品がお買得、工場見学が面白いというものが多い。 東芝未来科学館では環境経営に関する同社の取り組み、環境保護と環境調和型製品の重要性が平易に紹介・解説され、訴求されている。口コミは、川崎駅から至近距離にある、入場が無料、エデュテインメントが充実しているというもののほか、コーポレートブランド「東芝」を含むもの、企業としての「東芝」に言及しているものが多い。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題を実施する前に設定した「脱コモディティ化を図るためのブランディングが、一部メーカー設置の体験型施設でどのように行われているか」というリサーチクェスチョンに従って、えびせんべいの里、東京かねふく、東芝の三社に対してヒアリングと施設における実地調査を行い、口コミ形成とブランディングに対する体験型施設の有効性が検証できた。すなわちトリップアドバイザーにより口コミ形成状況を調べ、体験型施設における展示と体験が、コーポレートブランドと製品名を含む口コミの形成を刺激し、ブランドの知名度向上に貢献していることが明らかになった。加えて、ブランディングと区別されるウォッシング効果の存在推定を得て、研究に一層の深みと広がりが生まれた。 これら三社の体験型施設では環境経営の対外的訴求とエデュテインメント、ホスピタリティの提供でブランディングに関し顕著な成果があがっていることが判明した。そして環境経営の活動・実践を意欲的に行い、その土台の上にこれを紹介し訴求することが重要であるというのは子供に対しても当てはまる。環境経営に関する学びの提供は次世代育成、すなわち将来における環境保護と持続可能な社会構築の担い手を養成することに繋がるし、将来的に自社製品ユーザーとなる可能性を秘めている低年齢層に自社ブランドを刷り込み浸透させることにもなる。つまりこういう取り組みは社会的責任の遂行とブランディングの両方に関して大きな意義を有するという知見が得られた。 さらにコーポレートブランドのイメージ向上については、「良い印象も悪い印象もない」等の中立的イメージを起点にする場合ないし好ましいイメージが強化されるブランディング効果とは別に、マイナスイメージから出発するウォッシング効果があることがわかった。これは業種や不祥事に伴う悪いイメージが社会貢献活動等によりいわば薄められるという中和効果、贖罪効果である。
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Strategy for Future Research Activity |
ブランディング効果とは区別される体験型施設のブランドイメージ・ウォッシング効果の存在推定を踏まえ実証研究を進める。経験価値付与によるコーポレートブランド・イメージへの効果については、本科研費による平成28年度の研究で「そのブランドを知っているが特に何も感じない」等の中立的なイメージを起点にする場合、あるいは好ましいイメージが強化されるブランディング効果とは別に、マイナスイメージから出発するウォッシング効果があることが判明した。つまり当該個人にとり無色・中立ないし肯定的なブランドイメージがより好ましい方向に変化する場合はブランディングの一効果、一つの表れである。一方、不祥事や事業内容により抱かれている負のイメージが社会的に有意義な活動の実施とその訴求で緩和されるのはウォッシング効果である。マイナスイメージが中立まで回復したり、プラスに転じたりする後者の場合については今後、科研費による本研究課題ではこの用語、すなわちウォッシング効果を用いることにする。 現実事例の積み重ねで脱コモディティ化とブランディングにおける体験型施設の有効性を実証するために、今後は平成28年度に訪問した三社以外の企業に交渉し、ウォッシング効果の検証を念頭に調査を行う。前述した不祥事等による負のイメージが抱かれている代表的な業界・機関は東京電力福島第1原子力発電所事故後の電力会社、原子力発電所である。また電力と電気は物理的差別化が困難なコモディティ商品である一方、電力自由化に伴い差別化が各電力会社にとって課題になっている。このようなことから調査は主として電力会社を対象として行う。すなわち原子力発電所の設置、再稼働に向けての動きに伴う当該電力会社のコーポレートブランド・イメージが、体験型施設におけるPR活動と経験価値付与によりどのように変化しているかを現地訪問とトリップアドバイザー投稿口コミの精査で調べる。
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